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「悲夢 Himu」

2009.2.6

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2月7日より公開される「悲夢 Himu」。


監督・脚本:キム・ギドク プロデューサ:ソン・ミョンチョル 撮影:キム・ギテ 音楽:ジバク 美術:イ・ヒョンジュ 出演:オダギリジョー、イ・ナヨン、パク・チア、キム・テヒョン、チャン・ミヒほか 上映時間:93分・PG-12 配給:2008韓/スタイルジャム


深夜、印章彫刻師のジン(オダギリ ジョー)は別れた彼女をクルマで追いかけている途中に、衝突事故を起こす。そのままクルマを走らせると、次は道路に人が飛び出してきて……ハッとした瞬間に目が覚める。夢だった。しかし、胸騒ぎを抑えられず、夢で事故を起こした現場に行ってみると、そこでは実際に事故が起きていた。警察に拘束されたのは、夢遊病患者のラン(イ・ナヨン)という女性だった……。


「サマリア」(05年)でベルリン映画祭銀熊賞、「うつせみ」(06年)でヴェネチア映画祭銀獅子賞を受賞した韓国のキム・ギドク監督の15本目となる作品は、日本のオダギ リジョーを主演に迎えての注目作だ。


オダギリ ジョーはセリフを日本語でしゃべり、イ・ナヨンをはじめとした韓国人キャストは韓国語でしゃべる。もちろん、ふつうこれで会話が成り立つはずはないが、この映画ではそれをOKとする。観客はまずはじめに、この不自然な設定を受け入れなければならない。


ジンとランが同じ夢を共有するという不思議な現象についても、同様にこれを受け入れる必要がある。ただしこの映画は、そうした世にも奇妙なシンクロニシティの謎を解く物語ではない。ふたりがシンクロニシティの現実をどう受け止めて、どう乗り越えて行くのか、そこに重きを置いている。


極端に大胆な設定のなかに登場人物を放り込むことによって、人間心理の本質を測ろうとする。そんな映画形態を採用した作品のひとつだ。


とくに興味深いのが、ランに対するジンの心の砕き方だ。よくよく考えると、「ジン=夢を見る側」「ラン=体験する側」という関係上、ジンはランを見殺しにできる立場にあったといえる。ふたりは赤の他人ゆえに。しかしながら、ランを気づかうジンのスタンスが崩れることは、結局最後までなかった(自分がどんなに苦しみを受けようとも……)。それはなぜだろう? 何が彼をそうさせたのか? その答えを考えずに、この作品を深く味わうことはできない。


テーマは何かと問われれば、“愛”と表現するよりほかないのだが、それは単にぬくもりとか安心感とか幸福感とかいう次元のものではなく、もっと、そう、何か大きな別なモノを示しているように思えてならない。強いて言うなら「自己犠牲」。愛憎併存を前提とするこの世界において、人間はいかなる“愛”を持つべきなのか? ギドク監督は、そう問いを投げかける。


本作「悲夢 Himu」は、現実的な整合性にとらわれることなく、作家色を全面に打ち出したアクの強い作品だ。観念的なギドクワールドは、特異なセリフ設定はもちろん、夢と現実の境界線上に着地する甘美なラストや、ある草原のシーン——誰が誰だか、愛だか憎しみだか、夢だか現実だが判然としないシーン——などにも色濃く表れている。


シリアスなトーンと独自の世界観は、好き嫌いが別れるところだろう。ギドクファンなら必見だが、基本的には観客を選ぶ作品である。間違いなく約束できるのは、「表情演技の達人」との異名を取るイ・ナヨンの豊かな演技が拝めることだ。



お気に入り点数:60点/100点満点中

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