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「ニキフォル 知られざる天才画家の肖像」

2006.8.29

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今秋、東京写真美術館ホールで公開されるクシシュトフ・クラウゼ監督作品「ニキフォル 知られざる天才画家の肖像」の試写。


監督:クシシュトフ・クラウゼ 脚本:クシシュトフ・クラウゼ ヨアンナ・コス 出演:クリスティーナ・フェルドマン、ロマン・ガナルチック、ルチアナ・マレク、イエジ・グデンコ 上映時間:100分 配給:2004ポーランド/エデン


20世紀のヨーロッパにおける絵画分野で今もっとも注目されているニキフォル。ポーランドが生んだ“アール・ブリュッド”の聖人である。


そんな彼の知られざる人生を描いた作品である。


人生を描いたといっても、物語になったのは、ニキフォルが亡くなる少し前、すなわち、彼の作品がようやく世間の注目を集め始めてから亡くなるまでの数年にすぎないのだが。


叙情的かつノスタルジックな演出のカメラが狙うひとりの老人は、まごうかたなき絵の申し子である。


1895~1968年までの73年間に彼が残した作品は約4万点。そこには「芸術」や「才能」といった定義のウンヌンをひと吹きに飛ばしてしまうだけの、情熱と説得力がある。


言語障害をもち、言葉の読み書きができない彼には、絵を描くこと以外の欲望がすっぽりと抜け落ちている。


ニキフォルは、物乞いのような貧困路上生活を続けながら、描いた絵を観光客に売って日銭を稼いでいた。理解のない周囲の人々は、そんな彼に容赦なく冷たい視線をあびせたが、本人は気にも留めない。世間に相いれないその姿は「孤高」と呼ぶには、あまりに自意識がなく無邪気である。


それどころか、専門家のあいだで次第に高まりつつあった自分の作品への評価にさえ、ニキフォルはさしたる関心を示さなかった。


残念ながら、この2時間という限られた映画コンテンツは、ニキフォルの作品の素晴らしさを伝えきるに至っていない(というより、本来映画はそこまでの役割を担っていない)。がしかし、ニキフォルという、生涯を絵に費やした人間の存在を世に知らしめた価値は小さくはない。


私たちが画家の作品に覚える感動の源とは何だろう?


その答えはおそらく一つではないだろうが、少なくとも作者の魂のありようと無関係ではないだろう。あるいは作品とは、作家の魂の質そのものといってもいい。その質がニキフォルの場合、“素朴さ”や“純粋さ”であるがゆえに、時代を経てもなお人々の心を惹きつけてやまないのだろう。


実は、男性であるニキフォルを演じたのは、86歳になるポーランドのベテラン女優クリスティーナ・フェルドマン。他の画家とは明らかに違う理屈で絵を描くニキフォルを、圧倒的な存在感で演じ切っている。


彼女の緻密にして自然体の演技なくして、この映画は成立しえなかったと断言できる。


さらに本作では、自らの人生を投げ打ちつつ、ニキフォルというひとりの芸術家を世に送り出したもうひとりの画家の姿も描かれているが、その画家からも、ある種の、人生についての深い感慨を教えられたことをつけ加えておこう。


この映画はニキフォルのサクセスストーリーを描こうとしたものでない。並外れた観察力、表現力、包容力、色彩感覚、そしてイマジネーションを総動員し、パラノイア(偏執病)的に絵を描き続けたひとりの画家の姿を描いたにすぎない。


生き、描き、死んでいったニキフォル。


言葉にするとただそれだけの男が、生前にこんな言葉を残している。


「私の絵は私が生きた証として永遠に残るだろう。私の絵は私の分身なのだ。他のやつらの絵とはまったく違う。もっと近くで私を見てごらん」


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