「夜顏」
2007.11.16

12月15日より銀座テアトルシネマで公開される「夜顏」の試写。
※公開情報:
2006年ヴェネチア国際映画祭・特別招待作品。
監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ 製作:セルジュ・ラルー 撮影:サビーヌ・ランスラン 出演:ミシェル・ピコリ、ビュル・オジエ、リカルド・トレパ、レオノール・バルダック、ジュリア・ブイゼル 上映時間:70分 配給:2006年ポルトガル・フランス/アルシネテラン
38年ぶりにパリで偶然再会した未亡人セヴリーヌと亡き夫の友人アンリ。アンリは胸に秘めていたある真実を打ち明けたいという口実でセヴリーヌに近づき、ディナーの約束をとりつける。38年前にセヴリーヌ、夫、アンリのあいだに何があったのか? アンリだけが知る真実とは?
99歳の巨匠が撮影した映画の魅力に満ちた1本だ。
限られたシーンと限られたセリフのなかで、人間という生き物の背徳性、人生の不思議さを、闇に浮かび上がるロウソクの火のように照らし出している。
男女ふたりの老人の38年ぶりの再会を通じて描き出されるものは、青春の回顧録などというさわやかものではない。過去への悔い、未来への不安、孤独、不信感、悪意、やましさ、満たされなさ、追憶……。
「過去の秘密」をキーワードにしながらも、この作品があぶり出そうとしているものは、秘密の中身ではない。秘密がある、という事実そのもののほうである。
秘密と告白。それらが善意であれ悪意であれ、おそらく人間はこの狭間で生き続ける生き物なのだろう。99歳の人生の大先輩が提示する哲学的なスリルに、思わず身もだえしそうになる。
意味ある空白で埋め尽くされた映像は圧巻だ。脚本でも展開力でもなく、この作品を支えているものは、たぐいまれな人間観察力と、天才的な表現力に尽きる。
ドヴォルザークの「交響曲8番」をオーケストラで聴かせるプロローグに心をふるわされる。あるいは、光沢と陰影が交錯する油彩画のごとき絵作りの美しさにカラダごと引き込まれる。会話劇は、知的でウィットに富み、沈黙のなかで行われるかけ引きは、なんとも意地悪でスリリングだ。美術や衣装にも品格とこだわりが感じられる。
あるバーテンダーが娼婦についてこう話す。
「彼女たちこそ天使だと思うんです。体は売っても、裏切ってはいない」と。
目が覚めるようなセリフだ。
プロットは単純ながら、内容は底なし沼のごとく深い。そして、その底にたどり着けぬまま、過去と未来のいずれにも引きずられながら生きるのが人間だ、とこの映画は言っているようでもある。
わずか70分、4200秒の一瞬芸。ボーっとしていれば一瞬にすぎるであろうこの時間に閉じ込められた優雅で格調高き芳香に酔いしれてみるのも、人生の味わいのひとつだろう。
実は本作「夜顔」は、ルイス・ブニュエル監督にオマージュを捧げ、1967年に公開されたカトリーヌ・ドヌーヴ主演「昼顔」の38年後を描いたものだという。事前に「昼顔」を見ておくとなお楽しめるだろう(※銀座テアトルシネマでは、「夜顔」の公開に合わせて「昼顔」も上映するという)。
衰えを知らない99歳の明晰な頭脳と創作意欲に拍手を送りたい。
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