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「ザ・マジックアワー」

2008.6.22

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公開中の「ザ・マジックアワー」を鑑賞。


監督・脚本:三谷幸喜 出演:佐藤浩市、妻夫木聡、深津絵里、綾瀬はるか、西田敏行、小日向文世、寺島進、戸田恵子、伊吹吾郎、浅野和之、香川照之ほか 上映時間:136分 配給:2008東宝


ふたつのギャングが対立する港町「守加護」。ボスの女に手を出した備後は、その償いとして、ボスから伝説の殺し屋“デラ富樫”を探し出すことを命ぜられる。だが、さっそく手づまりになった備後は、三流役者の村田を雇ってデラ富樫に仕立て上げる作戦を思いつく……。


「映画=虚構」と「現実」のあいだに生じるねじれ。「ウソ=虚構」と「現実」のあいだに生じるねじれ。このふたつのねじれを笑いに転換したのが三谷幸喜の最新作「ザ・マジックアワー」だ。物語にメリハリをつけつつ、さまざまな方法で観客から笑いを奪っていく、見ごたえのある1本だ。


映画の主人公である殺し屋デラになりきった村田と、そんな村田を本物のデラと思い込むギャング団、さらには、その双方にウソがバレないか戦々恐々とする備後がくり広げる傑作ドタバタ劇は、よく練られた脚本のタマモノ。全編を染め上げるフィルム・ノワール的な空気も、無国籍気分な港町という舞台設定にズッパマりなら、短編映画よろしく時折挟まれる撮影シーンも洒落っ気たっぷりだ。


村田とギャング団の双方が、自分の勘違いに気づきそうで気づかない。そこは、コメディ映画のお約束だ。それどころか、お互いの勘違いをますます深めさせる“後付け”的な伏線をガンガン積み上げていく大胆な展開。運を味方につけながら、備後が立てたあまりに稚拙な作戦が次々と戦果を上げていくプロセスが痛快だ。


また、“映画”そのものをキーワードにした本作には、古今東西さまざまな映画へのオマージュ要素がふんだんに盛り込まれている。ゆえに、映画ファンならば“+α”の楽しみが得られる。もちろん、そうしたオマージュは、映画ファンへのちょっとしたご褒美的なものであり、たとえ、それをスルーしたとしたも、物語を楽しむうえで何ら支障はない。このあたりのサジ加減は、まさしく絶妙である。


また、ギャラなしでも出演したいという役者が多数いるという三谷映画らしく、脇役やカメオ出演者を含め、キャストの顔ぶれは豪華そのもの(生前の市川崑監督も出演)。しかも、彼らをただ登場させるだけではなく、わずかなシーンでも各人の良さを引き出しているあたりが素晴らしい。


三谷作品の前作「有頂天ホテル」は、しつこい笑いが多すぎてあまり好きになれなかったが(※レビューはコチラ)、本作「ザ・マジックアワー」では本来の“しっかりと物語を撮る”という三谷節が復活。バカバカしさのなかにも役者たちのクソまじめな演技がおかしさを醸し出し、ラスト間際の銃撃戦に至っては、あまりのくだらなさながら、その伏線ベタベタ感が、客の快感を引き出す。また、名画のラストに模した村田にまつわるクライマックスは、名画同様に、泣ける(笑)。荒唐無稽だけどリアル。バカバカしいけどおおまじめ。スクリーンのそこかしこから映画愛が満ちあふれている。


佐藤浩市のある意味、キャリア最高(?)と呼ぶにふさわしいぶっ飛び演技をはじめ、達者な役者たちの演技にも、映画に対する愛を感じる。一流の役者が三谷監督の世界観を理解しているからこそ、このモロにハリボテな世界に、(映画的な)リアリティを吹き込むことができたのだろう。せっかくの映画なのだから舞台的なクサみがもう少し薄くてもいい気がするが、そのクサみこそが、この作品の魅力だとすれば、やはりこのサジ加減も絶妙ということになるのだろう。


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