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「天国はまだ遠く」

2008.11.7

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11月8日より公開される「天国はまだ遠く」。


監督:長澤雅彦 脚本:長澤雅彦、三澤慶子 原作:瀬尾まいこ 音楽:渡辺俊幸 美術:金田克美 出演:加藤ローサ、徳井義実(チュートリアル)、河原さぶ、絵沢萠子、郭智博、宮川大助ほか 上映時間:1時間17分 配給:2008日/東京テアトル


京都府宮津の山奥にある「民宿たむら」にやってきたのは、都会の生活に疲れ果てたOLの千鶴(加藤ローサ)。その夜、千鶴は睡眠薬を大量に飲んで自殺を図るが、未遂におわる。千鶴は、民宿をひとりで切り盛りする青年、田村(徳井義実)のさり気ない優しさにふれ、少しずつ元気を取り戻していくが……。


自殺未遂を犯した千鶴が、のどかな自然と自給自足の生活を送る田村の優しさに包まれながら、少しずつ自分を取り戻していく再生の物語だ。


特筆すべきは、ワケあり女に対する田村の手の差し伸べ方だ。厄介払いするでも、はれものに触るようでもなく、どこまでも自然なのだ。適度な距離を保ちながらのふるまいは、相手に安心感と癒しを与える。もし田村が説教くさい男だったら、あるいは、口先だけの優男だったら、この物語は成立していない。


田舎での生活は、都会では気づきがたい“生”のすばらしさを教えてくれる。降りそそぐ陽光が、吹き抜ける風が、生い茂る木々が、川のせせらぎが、満点の星が、小鳥のさえずりが。生きるということは、一瞬一瞬のすばらしい“生”の継続であることを、宮津という舞台が語りかけてくる。


田村と千鶴の関係にも、引かれるものがある。人は身近な人間の領域に深く足を踏み入れすぎる。あるいは逆に、身近でない人間の領域には断固として入ろうとしない。とりわけ、都会において顕著なその距離感の不全が、ふたりのあいだにはまったく見られないのだ。まるで長年連れ添った夫婦のようだ。


長澤監督の前作「夜のピクニック」(06年)は、ユーモアの冴えなさが際立っていたが、本作では、地味な物語のアクセントとして、ユーモアが絶妙な趣を醸し出している。そば打ち、スケッチ、ゲロ、携帯電話、吉幾三……。素朴なネタから生まれるふたりの掛け合いは、客席にリラックスした笑いを届ける。


ただし、<千鶴の自殺>と<田村の辛い過去>というふたつのエピソードの説得力が弱く、“生”というテーマを昇華させる装置としてほとんど機能していないのは致命傷だ。とくに<田村の辛い過去>は、原作には描かれていない追加設定だが、取ってつけたかのような安っぽさ。むりやり“死”の影をちらつかせずとも、舞台設定とキャラクターで、十分に勝負できる作品ではなかっただろうか。


劇中のセリフにもあるように、日本に本当の意味での田舎などもうないのかもしれない——。本作では、そうした廃れ行く田舎暮しの一端を、観客が、千鶴と一緒になって味わうことができる。


かといって、「都会で消耗→田舎で回復」という単純なプロットが存在するだけではない。自分らしさを取り戻していくなかで、千鶴自身もまた周囲の人たちに積極的に働きかけ、癒しを与えていく。受動的な癒しと能動的な癒しの均衡。あらゆる関係が一方向ではなく、双方向であることが、本作「天国はまだ遠く」の魅力といえる。


天然キャラの千鶴に、誠実な田村。このナイスカップルの行く末はいかに……? そんなドキドキ感も抱かせながら、人間の強さと弱さをうるさくない程度に浮かび上がらせる「天国はまだ遠く」。スピーディな時間と煩雑な人間関係に疲弊する都会人にとっては、一服の清涼剤となるだろう。



お気に入り点数:65点/100点満点中

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