映画批評「戦場でワルツを」
2009.11.30 映画批評

公開中の「
監督・製作・脚本:アリ・フォルマン 美術監督・イラストレーター:デイヴィッド・ポロンスキー アニメーション監督:ヨニ・グッドマン 音楽:マックス・リヒター 出演:ボアズ・レイン=バスキーラ、オーリ・シヴァン、ロニー・ダヤグ、カルミ・クナアンほか 上映時間:90分・PG12 配給:2008イスラエル・独・仏・米合作、イスラエル映画/ツイン=博報堂DYメディアパートナーズ
第81回アカデミー賞外国語映画賞の最有力候補に挙げられながら、その栄冠を日本の「おくりびと」に奪われたイスラエル映画「戦場でワルツを」は、1982年のレバノン侵攻でイスラエル軍に従軍したアリ・フォルマン監督が、自身の体験をもとにしたドキュメンターリー・アニメーション。独自の視点で戦争の苦しみや不条理を浮き上がらせ、世界各国で映画賞を獲得した話題作だ。
映画監督のアリ(主人公)は、旧友から「26頭の犬に襲われる悪夢に悩まされている」という旨の相談を受ける。旧友いわく、その夢の原因は、24年前に自分たちが従軍したレバノン戦争の後遺症だという。その話を聞きながら、アリは自分が当時のことをまったく覚えていないことに気づく。アリは親友である臨床精神科医の勧めにより、失われた記憶を取り戻すべく、世界中にちらばる戦友たちをたずねる旅に出た……。
極めて個人的な記憶をたどりながら、歴史の再検証を試みるこの物語には、机上で創造するフィクションとは一線を画す——実体験にもとづいているがゆえの——リアリティがある。つまびらかになるのは、戦友の記憶であると同時に、自分自身の記憶、そして、レバノンとういう土地そのものが宿す記憶でもある。
この映画は、“戦友の回想”というスコップを使って、主人公が無意識のうちに埋葬した“真実”を掘り起こしていく「記憶のロードムービー」だ。断片的な記憶同士をつなぎ合わせる入り組んだ構成は、複雑を極めるイスラエル・パレスチナ問題に対する認識を安易に単純化させないだけでなく、アリ・フォルマン監督の(政治的に)フェアな立ち位置をも明らかにする。
特筆大書すべきは、ドキュメンタリー・アニメーションという独自の映像表現を採用した点だ。本来、二律背反の関係にあるはずの“ドキュメンタリー”と“アニメーション”だが、不必要な夾雑物については、あえて明確に描かないようにすることで、観客の意識をフォーカスすべき対象へと導く。フラッシュ・アニメ、古典アニメ、3Dを融合したという絵作りは、シュールなカラーリングと相まって、唯一無二の雰囲気を漂わせる。
また、登場人物の声に実際の取材対象者の肉声を使用するほか、各シーンの印象を深めるリアルな効果音や音楽も効果てきめんで、アニメーションでありながらも、実写的なスリルや緊張感をまったく失っていない。“抽象性”というアニメーションのアドバンテージは、夢や回想や幻想を表現する際にも遺憾なく発揮されている。
ラストで、それまでデフォルメされていた世界に“命”が注がれた瞬間、観客は、好むと好まざるとに関わらず、アリ監督が封印し続けてきた“痛み”を追体験することになる。このシーンが与える衝撃は筆舌に尽くしがたい。少なくとも私は、その数分のあいだ、ほとんどまばたきをすることができなかった。それまでの80分強の時間を丸ごと「てこ」にする斬新な手法により、この映画は世界中の人々の心に消去しがたい反戦メッセージを残す。
ドキュメンタリーという“現実”と、アニメーションという“抽象”、そのふたつの性質を最大限に活用した反戦映画「場でワルツを」は、映像表現の可能性に挑んだ意欲作でもある。ビジュアルや音楽や構成において非凡な作家性をちりばめている点、そして、封印していた忌まわしい記憶のカギをあえて外しにかかったアリ・フォルマン監督の勇気にも賛辞を呈したい。
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2009年12月02日 11:24
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アニメーションで表現したドキュメンタリーで、実写より不気味な感じが良く出ている。しかし、この映画は単に戦争で封印した自分の記憶を蘇らせるだけに終わっている...
2009年12月14日 14:31
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