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「バベル」

2007.5.18

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公開中の映画「バベル」を観賞。


監督・原案・製作:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ 出演:ブラッド・ピット ケイト・ブランシェット ガエル・ガルシア・ベルナル 役所広司 アドリアナ・バラッザ 菊地凛子ほか 上映時間:143分 配給:2006メキシコ/ギャガ


仲たがいしていたアメリカ人夫婦のリチャードとスーザン。本来のきずなを取り戻そうとモロッコ旅行へ。人里離れた山道をバスで走っていると、突如、どこからか放たれた1発の銃弾が、スーザンの肩を撃ち抜く。出血が激しいスーザンを乗せたバスはなんとか近くの村へたどり着くが、応急処置がやっと。リチャードは英語が思うように通じない村人や、対応が遅いアメリカ政府にいらだちを覚える…。同じころ、東京に住む聾唖(ろうあ)の女子高生のチエコは、心に鬱積する苛立ちを吐き出すことができずに悶々としていた…。


ノアの大洪水ののち、人類がバビロンに天に達するほど高い塔を建てようとしたのを神が怒り、それまでひとつであった人間の言葉を混乱させて、互いに通じなくなるようにした…。そんな旧約聖書の創世記に出てくる“バベルの塔”の伝説に、テーマを着眼させた物語である。


チラシにはこうある。今、モロッコで放たれた一発の銃弾が、アメリカ、メキシコ、そして日本の孤独な魂をつなぎあわせ、息をのむラストへと加速する——と。


つなぎ合わせる、とはいっても、大きく4つに分かれる物語がスムーズにつながれているわけではない。加えて、つなぎ合わせているモノは、ロープでもなければ、ヒモでも、糸でもない。あえて言うなら、針の先にも匹敵するわずかな“点”で4つの物語はつながれている。


そして、ロープでも、ヒモでも、糸でもない“点”であることに、この作品の意味があるように思える。


たとえば——快適にクルマを走らせていたドライバーが、不用意な急ブレーキを踏んだことにより、後続車の大渋滞を招くというようなこと。急ブレーキを踏んだ本人は、自分のその行為が、ダレか他人に影響を与えているとは露ほども知らない。


あるいは、先進国の高慢が地球の温暖化を招いたにもかかわらず、その制裁を、何ら罪のない南の島の住人や、北極圏に住む動物たちが受けようとしている事実(海面の上昇による諸問題)。島を離れなければいけない住人の気持ちや、絶滅に追い込まれつつある動物の気持ちを、加害者である先進国の住人の多くは、知らない——。


点でつながるとは、そういうこと。


ただ、そうしたつながりに人間は盲目になりがちである。とくに“言語が通じない”“国が違う”という線引きがもたらす盲目。その根は深い。4つの物語の主人公に与えられた必要以上に過酷な試練は、その盲目を知らしめるための(激痛を伴う)検査薬のようでもある。


「相手が子供と分かっていながらも銃で射殺する警察」、「砂漠に女性と子供を置き去りにする男」、「人命に優先される国家間のあつれき」……。


そのほかにもドラッグ、身内の自殺、麻酔なしの荒治療、砂漠での生き地獄……等々、国家や言葉や障害の壁という実質的な問題を背景に据えながら、小さなシーンの細部に至るまで救いの手を差し伸べない。観客に安堵は与えなまいとする毅然とした態度は、この映画の主題と心中しようという製作者サイドの決意の表れのようにも感じるし、人間の業をいさめようとする神の天罰のようにも感じる。


そうしたなか、菊地凛子が扮する聾唖の主人公が言葉にならない(できない)感情の鬱積をイビツなカタチで表出させていくくだりは、“言葉が通じない”という本作のテーマを浮き彫りにするシンボリックなオブジェとして効果を発揮している。


そして、この映画が示す“言葉”とは、実は“心”であることに気づかされる。


世の中でもっとも怖いのは、“心”が通じないことなのかもしれない、と。


菊地凛子もさることながら、メキシコ人のベビーシッターに扮したアドリアナ・バラッザ、モロッコで銃弾を放った子役ブブケ・アイト・エル・カイドなど、キャストの演技力が、この作品を魅力を昇華させている。


加えて、主人公たちの複雑な思いを映し出す映像表現が秀逸で、巧い、と思わせるシーンが少なくなかった。


数十億人との容赦のないつながりは、ある意味恐ろしくもあるが、その現実を否定することはできない。本作「バベル」では、そのつながりを悪循環というカタチで強烈に見せつけてはいるが、もちろんそれは、観客に諦めを突きつけるためではないだろう。


つながりには、悪循環の対極(好循環)もあるということを、メタファーとして込めている。


そう思わないことには、あまりにも出口のなさすぎる、過酷で非情な作品である。


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