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「蟲師(むしし)」

2007.3.15

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3月24日より公開される映画「蟲師」の試写。


原作:漆原友紀 監督・脚本・製作:大友克洋 脚本:村井さだゆきほか 音楽:配島邦明
出演:オダギリジョー、江角マキコ、大森南朋、蒼井優、りりィ、李麗仙、クノ真季子、守山玲愛ほか 上映時間:131分 配給:2006日/東芝エンタテインメント


累計290万部を売り上げている漆原友紀の同名人気コミックを、アニメ映像の第一人者である大友克洋監督が実写化。


かつての日本の自然界に存在し、精霊でも幽霊でもないあやしき生き物としてさまざまな不可思議な現象を引き起こす“蟲(むし)”。多くの人の目には映らない“蟲”の現象を鎮め、人々を癒し救うギンコ(オダギリジョー)。彼の旅を描いた幻想的な物語である。


かつて日本の大自然に棲息していた“蟲”。そのテーマは実に興味深い。近代化を遂げる(大自然が減少する)に連れて絶滅した種は少なくないと思われるが、“蟲”もそのひとつだと考えればいい。現代に置き換えるなら、ウイルス、病気、事故、自然現象などが、“蟲”のようなものか。


本作では“蟲”の表現にVFX(ビジュアル・エフェクツ/視覚効果)が多投されている。


その表現のひとつひとつは、とらえどころのない“蟲”の姿を、意外性とある種の美しさをもたせながら表していて大変面白い。多くの人の目には映らない“蟲”の映像化。そこには視覚的な面白さを超えた奥行きを感じる。


しかしながら、ストーリー的には、やや問題をはらんでいるように思う。


聞くに、蟲師の原作は一話完結の物語。おそらくは、蟲師が毎回、さまざまな人々と出会いながら新たな“蟲”と対峙するという物語なのだろう。そういう意味では、この原作の面白さをあえてひとつに絞るとしたら、単純に<蟲師が“蟲”の謎を解き明かすプロセス>ということになるのだろう。


ところが、映画化されたものは、前半の30分を除けば、ギンコの生い立ちに起因する一種ミステリアスかつ宿命めいた物語を用意している。


これが、けっこうキツイ。


話がややこしいわりに深みに欠け、そのクセ妙に思わせぶり、かつ冗長なのだ。江角マキコが絡むシーンに至っては、チープなホラー映画の風体である。


加えて、主人公を演じるオダギリジョーも不発気味。ギンコという存在の不思議さと神秘性を差し引いても、彼が、独創的なファッションを身につけるいつもの(!)オダギリジョーにしか見えないのは、いかがなものだろうか(苦笑)。


ダレもが知る「ドラえもん」ならまだしも、ギンコはまだ市民権を得ているキャラクターとはいえない。そういう意味でも、主人公ギンコの魅力を伝えることは、この映画がしなければいけない最低限の義務だと思う。


果たしてその義務は果たせているだろうか? 思わせぶりなストーリーにすり替えることで、一話完結物語の魅力——偉大なるマンネリ=蟲師が“蟲”の謎を解き明かすプロセス——が失われてはいないだろうか?


知りたいのはギンコの生い立ちでも、その生い立ちにまつわる秘密でもない。ギンコが蟲師としていかに考え動くのか、そして、彼の手腕によってあぶり出される“蟲”の正体(意味)ではないだろうか。


——というのが、原作未読者の個人的意見である。


この作品のテーマは深遠だと思うし、ロケーションやVFXを織り交ぜた映像的な魅力も少なくない。ただし、物語とキャラクターの演出(キャスティングも含め)、いわば映画の肝心どころが押さえられていない。その致命傷が、思った以上にマイナスに作用している。


おそらくこの作品は、一部の評論家(あるいは原作の熱心な読者)から評価されると思うし、一般観賞者のなかにもこの作品が内包する深い意味を受け取る人や、再観賞を重ねることでその輪郭をとらえる人もいるかもしれない。


だけど、『蟲師』は本当にそこまで思わせぶりに料理すべき作品なのだろうか? という基本的な疑念は晴れない。多少の作家性・メッセージ性をセーブしてでも、キャラクターを立て、偉大なるマンネリを重視した物語を紡ぎ上げる親切さがあってもいいように思えた。


この場合の親切さは、逃げではなく、勇気だと思うのだが。


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