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「素粒子」

2007.3.7

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3月24日よりユーロスペースで公開される映画「素粒子」の試写。


1998年にフランスの作家ミッシェル・ウエルベックが書いた長編小説の映画化。


原作:ミシェル・ウエルベック 監督・脚本・製作:オスカー・レーラー(ドイツ)、出演はモーリッツ・ブライプトロイ、フランカ・ポテンテ、マルティナ・ゲデック、ニーナ・ホスほか 上映時間:113分 配給:2006独/エスパース・サロウ


舞台は20世紀末のドイツ。幼いころ、両親に育児放棄された異父兄弟の兄ブルーノは国語教師、弟は生物学者。ブルーノは過剰な性欲を抑えることができず、ヒッピー集団のキャンプや風俗クラブへ出向くようになる。一方のミヒャエルは、クローン技術の研究に没頭するなかで生涯初とも言うべき恋愛衝動に襲われる。そんなふたりに訪れた転機、そしてその先に待ち受けていたものは…?


愛情に恵まれなかったこの兄弟は、まったくタイプの異なる人間である。ふたりに共通しているものは、社会のモラルや常識という枠に、どちらも収まりきれていないという点くらいだろうか。


性欲過多なブルーノは、自分の生徒の前で○○○○をさらけ出す変質者ぶり、かつ、泣きやまない自分の赤ん坊のミルクに○○○を混ぜる狂人ぶり。一方、弟のミヒャエルは、飼っていたインコが死ぬと、それを、あたかも○○を捨てるかのごとく扱うロボットのような人間である。


この作品は、対極的でありながらも、どちらもイビツな兄弟それぞれの人生を描き、それぞれが迎え入れなくてはならない人生と代償について、その因果を掘り下げている。


ただ、よく見るとミヒャエルのイビツさは大きな問題ではないことが分かる。彼の感覚はたしかに世俗からかけ離れており、感情に乏しい面も否めないが、彼は初めて恋をしたときに、その先に待ち構えていた不幸に対して、人間らしい感情と愛情を持って対処できていた。つまり、愛情という感情が芽生えたことにより、ロボットから人間へと大きく成長を遂げたのである。


問題はブルーノである。彼の疾患はSEX至上。SEXの快楽こそがこの世の楽園だと思い込んでいる。その結果、彼はフリーSEXを認め合える相手に巡り合い、そこに大きな価値を見出す。


がしかし、その後、相手の女性に襲いかかった悲劇に対して……ミヒャエルの対局にある選択をしてしまう。彼は土壇場で保身に走り、「赤ん坊のミルクに○○○を混ぜる」がごとく行動を取ってしまう。


そこで多くの観客は確信するだろう。彼の疾患であるSEX至上の原因の一端は、(もらい、与える)愛情の欠如にあることを。


この映画はふたりの生き方以外にも、SEXやクローンや親のネグレスト(育児放棄)など、さまざまな社会的要素を含んでいるが、それらは、あくまでも問題の表面をトレースするだけの飾りにすぎない。


もっとも言わんとしていることは——人を愛することの意味。そこに核心がある。


その意味に気づいたミヒャエルと、最後まで気づかなかったブルーノ。その両者の違いを描くことにより、価値観が多様化し、それらが複雑に交錯する現代社会のひずみを浮かび上がらせている。


ともすれば、「ミルクに○○○を混ぜる」も「インコを○○のごとく扱う」も「親のネグレスト」も、それはそれでOKでしょう、という方向に流れつつある時代を、真っ向からの批判するのではなく、むしろその方向を礼賛する視点から物語を構築していき、そこから導き出される結果に対する賛否を観賞者に問いかけている点が、この作品の面白さといえるだろう。


とはいえ、映画の演出が全般的に野暮ったく、どうにもなじめなかった。とくに、整合性のない音楽は本作最大の失策であり(映像とのマッチングを考えれば、いっさいの音楽をなくしてもいいくらい)、シーンのつなぎにもスムーズさがなく、物語というよりは、エピソードごとの断片を見せられているかのようなブツギリ感。皮肉めいた言い方をすれば、その滞った流れさえもが、この映画がテーマにしているイビツさを助長させている。


「社会に出たら毎日同じことのくり返し。唯一のイベントは病気だけだ」


劇中でブルーノが言ったセリフである。


このセリフが実感として感じられる人がいるとしたら、もしかすると、この作品が俎上に載せている現代社会の病巣に染まりつつある兆候かもしれない。


なぜなら——


人を愛することに、同じくり返しはないはずだから。


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