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「ボビー」

2007.2.18

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2月24日より公開される映画「ボビー」の試写。


監督・脚本・出演:エミリオ・エステベス 製作総指揮・出演:アンソニー・ホプキンス 出演:シャロン・ストーン、デミ・ムーア、アシュトン・カッチャー、イライジャ・ウッド、ヘレン・ハント、ウィリアム・H・メイシー、ローレンス・フィッシュバーン、マーティン・シーン、クリスチャン・スレーター、アンソニー・ホプキンスほか 上映時間:120分 配給:2006米/ムービーアイ


2007年の映画史に間違いなくその名を刻むであろう傑作である。


「語り尽くせない」という言葉があるが、この映画にはその言葉がぴたりと当てはまる。プロット、キャスト、演技力、映像、セット、編集、メッセージ性……あまりに魅力が多すぎて、また、その一つひとつの奥が深すぎて、語り尽くせない。


1968年6月5日、次期アメリカ大統領候補のロバート・F・ケネディ(通称ボビー)が、アンバサダーホテルで暗殺されたその日の物語。


アンバサダーホテルのなかには、年老いた元ドアマン、電話交換手と不倫関係にあるホテルの支配人、その支配人に懐疑の目を向ける妻の美容師、ステレオタイプなレストランマネージャー、ドジャース狂の見習いコック、アルコールに依存する女性シンガー、気分は楽園のドラッグディーラー、2度目のハネムーンをすごす社交界の名士……等々、人種も仕事も境遇も抱える問題も異なる22人の人間がいた。


1968年6月5日、ボビーが暗殺された日。そして暗殺されたアンバサダーホテル。この基本設定がノンフィクション、つまり史実に基づいている。


一方、アンバサダーホテルにいる22人の人間。彼らはフィクション、つまりこの映画のために作られた架空の人物である。


物語の軸は22人の人間によるホテル内での群像劇である。ただ、折につけ、選挙活動にいそしむボビーの映像が織り込まれる。


実は、この日は彼がカリフォルニア州選挙を勝ち取った日であり、夜には、ボビーがアンバサダーホテルにやって来て、勝利のスピーチをする予定になっていたのである。


面白いのは、ボビー、つまりロバート・F・ケネディに配役があてられていないことだ。なんと、ボビーの映像はBBCやCBSから提供された実際のニュース映像を使っているのである。


このようにフィクションをベースにしながらも、ノンフィクションをサブミリナル的に織り交ぜる巧みな映像技法により、観客は、1968年6月5日のアンバサダーホテルに、実際にこの22人がいたような錯覚に陥る。


さて、22人の群像劇。この物語が実に秀逸である。22人という人数は、同じ群像作品の「クラッシュ」と比較しても倍近い。いかに群像とはいえ、いささか定員オーバーのような気がしないでもない。


ところが、そんな心配は杞憂に終わる。よもや2時間の尺では掘り下げられないのでは? と邪推するこちらの懸念を打ち破り、一人ひとりのキャラクター——抱える問題や葛藤、意識、思想、善悪——などがはっきり描かれているのである。


その勝因は、複数の登場人物を同一シーンに絡める采配の巧みさにある。複数の人物が、ときに交ざり合い、ときにぶつかり合う。個々の人間性をことこまかに説明するのではなく、互いのままならぬ人間関係や利害関係を克明に描くことにより、22人の個性をじわじわとあぶり出していく精妙なプロット。この綿密な計算に基づいたムダのない脚本には脱帽するほかない。


しだいに個性も境遇も何もかもが異なる22人がいとおしく思えてくる。その理由を説明するのは難しいが、もしかすると、(内容こそ異なれど)大小さまざまな壁にぶつかりながら、迷ったり、あきらめたり、耐えたり、夢見たり、乗り越えたり、落ち込んだりする彼らのなかに、自分自身の姿を見つけるからなのかもしれない。


そして、22人の人間像がすーっと胸のなかに入り込んできたところで、物語は確信犯的に、あの痛ましい事件へとシフトしていく……。


ひとりの政治家の思想を背景に据えたこの作品は、残念ながら、プロパガンダ色が強すぎると批判をくらう可能性が否めない。


がしかし、プロパガンダと一蹴するにはあまりに忍びない。なぜなら、折につけ挿入されるボビーのスピーチが、いやおうなく心を打つからである。


具体的な内容は控えるが、ボビーのスピーチには政治的な範疇を超えた、普遍的な、自由と共存への叫びが込められており、なおかつそれは、はるか時空を超えて、至極平和な21世紀の日本という国でぼんやりと暮らす人間の魂をゆさぶる。


裏を返せば、そんなボビーの自由と共存への叫びを、当時、ベトナム戦争や閉塞した差別社会にうんざりしていたアメリカ人がどう受け止めたかは、推して知るべし、である。


クライマックスで流れる彼のメッセージを聞きながら、落涙を抑えることができなかった。


おそらくは、決して太くはない自分のアンテナが、ボビーを失った当時のアメリカ人の悲しみの一端を、鋭く感じ取ったからなのだろう。


人間は、分かっていながらも、戦争と決別できない愚かな生き物である。それでも、その状況をどうにかして乗り越えようと懸命に希望を与え続けた政治家の思いや、よりよい社会に生きたいという人々の痛切な願いや祈りが、こんなにもあふれているではないか——。それを希望と呼ばずして何と呼ぼう。


その希望を前に、この作品を単なるプロパガンダ扱いすることなど、少なくとも私にはできない。


監督と脚本を務めたエミリオ・エステヴェスの偉業は言うまでもなく、役者として押しも押されもせぬ実績を誇る豪華キャストの演技もすばらしく、ダレひとり突出することなく、決して特別ではない1/22を丁寧に演じていた。


史実と創作の融合を成功させ、群像劇としての深みも十分に兼ね備えた映画「ボビー」は、映画的な魅力に満ちあふれていると同時に、いまこの瞬間の人類が最も欲している希望を内包しているという点においても、高い評価を得るにふさわしい傑作である。


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