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「幸福な食卓」

2007.2.4

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公開中の映画「幸福な食卓」を観賞。


原作:瀬尾まいこ(本作は第26回吉川英治新人文学賞受賞作) 監督:小松隆志 脚本:長谷川康夫 音楽:小林武史 主題歌:Mr.Chirdren 出演:北乃きい、勝地涼、平岡祐太、さくら、羽場裕一、石田ゆり子ほか 上映時間:108分 配給:2006日/松竹


中学3年の中原佐和子(北乃きい)は、父と兄と一緒に暮らしている。母だけは、3年前に起きた父のある事件をきっかけに一人暮らしをしている。ある朝、父が突然「父親引退」を宣言。父の精神状態を知る兄弟は、そんな無責任極まりない宣言を素直に受け入れる。一方、佐和子のクラスには大浦勉学(勝地涼)という転校生がやって来た。優しくまっすぐな性格の大浦に佐和子は次第に惹かれていくが……。


兄と佐和子の、両親に対する気づかいが不憫でならない。ふつう、自分たちを置いて一人暮らしをする母や、「父親引退」を宣言する無責任な父に対して、抗議のひとつくらいしてもよさそうだが、この兄弟に限っては、それを、言わない。いや、言えない。


記憶から消し去ることのできない3年前の事件——父の“精神の破綻”——は、それほど大きいものだったのである。


こうしたプロローグで始まる「幸福な食卓」は、一見、崩壊した家族の再生までの軌跡をつづった物語を予感させるも、物語はあっさりとその予感を裏切り、妹の佐和子の生活にピントを絞っていく。


つまり、“家族”は本作の主題ではなく、実はサブストーリー。主人公・佐和子の背景にすぎない。この物語は、単純に、多感な思春期(中学3年生~高校1年生)をすごす佐和子の成長と自立の記録として観るべきだろう。


佐和子は、素直で優しいし、積極性も持ち合わせている。今どきの中学3年生にしては珍しく擦れたところのない健康的な女の子である。ムリに背伸びをして大人びることもなく、かといって子供じみたわがままを言うでもない。置かれた状況のなかで、歩くべき道を前向きな気持ちで歩いている……その姿のなんとも健気ですがすがしいことよ。


そんな佐和子の物語の核となるのが、転校してきた同級生の男子、大浦との交際である。


大浦の情熱的かつ直球勝負なキャラクターは、佐和子同様、擦れたところがまるでない。お金持ちの息子でありながらも、自分で稼いだお金で買ったプレゼントのほうが佐和子が喜ぶだろうと、真冬に新聞配達までするような頑張り屋であり、常に飾らない言葉で佐和子を自然に元気づける存在。そんな大浦に少しずつ思いが傾いていく佐和子の幸せそうな表情を見ると、しみじみと嬉しくなる。大浦は、佐和子のことを常に気にかけ、気づかう。それが、今まで家族を気づかう側にいた佐和子にどれだけ大きな安心感を与えたかは、日増しに笑顔が増えていく佐和子の表情を見れば一目瞭然である。


佐和子と大浦の関係は“熱”ではなく“水”のようだ。関係を急ぐこともなく、ゆっくりと時間をかけてお互いが信頼を深めていく。高校の合格発表の日にさりげなくつながれるお互いの手と手は、いじらしく、美しい。ふたりの、まっすぐに相手を見つめるまなざしは、観る者に忘れかけていた純粋な恋心を思い起こさせる。


いつしか大浦は、佐和子にとって、言いたいことがあるときに、家族に優先して打ち明けられる存在になっていた。それは、佐和子が「幸福な食卓」というタイトルが象徴する“家族”という共同体の殻を突き破って、外の世界へと一歩と足を踏み出したことを意味する。


だが、永遠に続くと思っていた大浦との関係も、突如として終焉を迎える(ここの展開は、あまりに安易すぎる…)。


大きな挫折に見舞われた佐和子だったが、大浦からもらったさまざまな温かい言葉や思い出を大切に胸のなかにしまい、再び前を向いて歩くことを決意する。諸行無常を知った佐和子は、失った「幸福な食卓」を悲嘆するのではなく、まだ見ぬ新たな「幸福な食卓」へ向かって歩き始めたのである。


何気ない日常のなかで、今を生きる少女の姿を描いた本作品は、映画初主演の北乃きいのみずみずしい演技なくしては成り立たなかったであろう。地味な物語を仰々しい演技でムリヤリ際立たせるのではなく、一つひとつの喜怒哀楽を、自然体かつ微細な表情の変化で表現した彼女に拍手を送りたい。


“家族”の描き方にどうもあいまいな点が多いものの、青春映画としては、安直なお涙頂戴モノとは一線を画した、じわじわと心にしみる良作といえるだろう。


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