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「それでもボクはやってない」

2007.1.31

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公開中の映画「それでもボクはやってない」の試写。


監督・脚本・音楽:周防正行 製作:亀山千広 撮影:栢野直樹 出演:加瀬亮、瀬戸朝香、山本耕史、もたいまさこ、役所広司、田中哲司、光石研、尾美としのり、田口浩正、清水美砂、竹中直人 上映時間:143分 配給:2006日/東宝


周防監督ならではのエンターテインメント作品を期待した方は、さぞかしアテが外れることだろう。


そして、アテが外れたこと以上に、多くのタメになること(日本の裁判の実態)を教わるだろう。


金子徹平(加瀬亮)は、満員電車で痴漢に間違えられて、現行犯逮捕。警察署での取り調べで容疑を否認するも、担当刑事に自白を迫られ、留置場にこう留されてしまう。こう留生活のなかで、孤独感と焦燥感を募らせる徹平。検察庁での担当検事取り調べでも無実の主張は認められず、ついに徹平は起訴される。刑事事件で起訴された場合、裁判での有罪率は99.9%。果たして徹平に勝ち目はあるのか……?


粒子の粗いインオーガニックな映像は、いっさいのエンターテインメント色を消し去ろうという周防監督の決意の表れだろうか、まるで30年前のドキュメンタリー番組を見せられているかのようだ。


その華のない(それこそ法廷を思わせる)粛々とした映像と釣り合いを取るかのごとく、約2時間半の長丁場を、他意や同情を挟むことなく、ひとりの青年(金子徹平)の痴漢えん罪事件をめぐる裁判を克明に描くことに費やしている。


私が観賞前に唯一目を通したのは、チラシに書いてあったストーリーのみ。その文面から読み取れたのは、周防監督が“日本の裁判制度の問題点”を浮き彫りにするのだろう、ということくらいであった。


だが、その読みはもろくも外れた。いや、たしかに日本の裁判制度に物申してはいるが、それよりもっと大きく重大な問題点を、本作「それでもボクはやってない」は浮き彫りにしている。


大きな問題点。それは——


——人が人を裁くことの限界。


——人には人が裁けない、ということ。


その限りなく真実に近い結論を、この作品は正攻法かつ真摯に導き出している。


周防流、異議申し立て、とでも言おうか。


被害者による私的逮捕→駅事務所での事実確認→警察署での事情聴取→検察庁での担当検事取り調べ→そして裁判……


このプロセスで観客が見せつけられるのは、ウソ、憶測、誤解、思い込み、つじつま合わせ、威嚇、どう喝、強要、偏見、誘導尋問、でっち上げ……など、“正義”や“真実”や“公正”とはほど遠いものばかりである。調書の取り方ひとつをとっても、それがいかに警察の恣意的な都合のもとに作成されているかがよくわかる。


スクリーンを見つめるダレもが心のなかでこう思うだろう。「ウソを言うなよ!」「公平にしろよ!」「裁判は出来レースかよ!」


でも、それは果たして警察、検察、弁護士、裁判官を含めた日本の裁判制度の問題なのだろうか?


少なくとも私は、それだけだとは思わない。


では一体何の問題なのか?


あまりに単純な答えで恐れ入るが——


——人間のモラルの問題である。


つまりこの作品は、単に日本の裁判制度を糾弾するばかりでなく、その制度のなかで生計を立てているすべての人たちのモラルに対して、警笛を鳴らしているのである。


裁判官が10人いれば、10通りの判決が下される可能性がある。「無罪」と「有罪」が裁判官の心証ひとつで変わる可能性がある。「死刑」と「無期懲役」がひとりの裁判官の個人的な価値観によって変わる可能性がある。


それが人が人を裁く裁判の実態であり、ひいては、人が人を裁く裁判の限界でもある。その限界の原因と責任を裁判制度だけに押しつけていいはずがない。


ではどうすればいいのか?


捜査や裁判にかかわるすべての人が、偏見や色目がねや恣意的な考えを捨て去り、一定のモラル(“正義”や“真実”や“公正”)をもって職務を遂行するほかないだろう。


そうした意識改革が行われない限りは、いくら取り調べ室が鏡張りになろうが、裁判員制度が導入されようが、結果は同じこと。えん罪事件が減ることはないだろう。


その意識の持ち方について、周防監督は、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事手続きの原則や、人が人を裁いてきた歴史のなかで生まれた「十人の真犯人を逃すとも一人の無辜(むこ)を罰するなかれ」という法格言を、引き合いに出さずにはいられなかったのだろう。


コミカルな要素やドラマ的な間合い、主人公に肩入れしたヒューマニズム色、エンターテインメント性——そうしたものたちをことごとく排除し、痴漢えん罪事件をめぐる裁判の一例を俯瞰で描いた社会派作品「それでもボクはやってない」。映画を観たというより図書館で裁判にまつわる文献を一気読みしたかのような充実感と疲労感……が、この作品の功績の大きさを物語っている。


やり場のない怒りや焦燥を言葉少なに表現する役回りを演じた主演の加瀬亮ほか、弁護士役の役所広司や瀬戸朝香も好演。脇を固めた演技派の大森南朋や小日向文世の存在感も光っていた。


くどいようだが、この映画は日本の裁判制度ばかりを断罪しているわけではなく、その制度にたずさわるすべての人の意識を問いただしている。


そして、足もとがおぼつかない人には、こう言葉を投げかけるのだ。


それでもアナタは人を裁きますか? と。


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アメリカでもヒットしリメイクもされた「Shall we ダンス?」の周防正行監督の新作です。 日本の裁判制度というかデティールを描いたもので、ほんとに細...

2008年12月20日 00:45

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