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「世界最速のインディアン」

2006.10.25

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07年正月に公開予定の「世界最速のインディアン」の試写。


監督・脚本:ロジャー・ドナルドソン 製作:ロジャー・ドナルドソン / ゲーリー・ハナム 共同製作:ジョン・J・ケリー 音楽: J・ピーター・ロビンソン 美術監督: J・デニス・ワシントン、ロブ・ギリーズ 上映時間:2時間7分 配給:2005年米/ソニー 出演:アンソニー・ホプキンス、ダイアン・ラッド、ポール・ロドリゲス、アーロン・マーフィー、アニー・ホイットル、クリス・ブルーノ、カルロス・ラ・カマラ、ジェシカ・コーフィールほか


伝説の男の正体を、世に知らしめる作品である。


この映画を観た人は、こんなスゴイ男がいたのかと大きな感動を覚えるだろう。そして、ある人は、自分自身のなかにある才能の芽に気づくかもしれないし、ある人は成功するためのヒントを得るかもしれないし、ある人は夢や旅や信念の素晴らしさを知るだろう。


主人公はバート・マンロー(アンソニー・ホプキンス)。ニュージーランドの小さな家に暮らすバートは、40年以上も前に買ったバイク“インディアン”を、ひたすら速く走ることを目的に、自分の手で改造し続けてきた。夢は世界最速を目指すライダーの聖地、アメリカのボンヌビルの記録会に出場すること。


ある日、年金暮しのバートにアメリカ行きのチャンスが訪れる。前立腺や心臓に不安を抱え、お金もないバートは、果たしてボンヌビルにたどり着けるだろうか? そして自慢のマシンは「世界」に通用するのだろうか?


1962年、実在したバート・マーロンが初めてボンヌビルの記録会に挑戦した実話をもとにしたヒューマンサクセスストーリーである。


バートは40年間、ひたすらニュージーランドにある小屋でバイクをイジリ続けてきた。オイルキャップにブランデーのコルクを使用したり、エンジンのピストンに「フォード」と「シボレー」のピストンを溶かしてこしらえたオリジナルものを用いたり、みずからナイフで溝を削ったタイヤを履いたり……と、すべての改造はダレかの物まねではなく、みずからの感覚と経験則に導かれている。


スピードメータもない。(通常ブレーキ時に必要な)パラシュートもない。ハンドリングもほとんどきかない(直線番長のため)。そしてエンジンは驚きの600cc。そんなマシンでも速ければ万事OK。それがバートのバイクに対する考え方。


記録会会場で“前代未聞のポンコツ”と揶揄されたこのバイクで、バートンは——


——1000cc以下の世界記録をたたき出す!


時速約300キロ!(実在のバートは70歳すぎまで記録を更新し続け、その世界記録は未だに破られていない)。


信じるものは、自分の技術と経験。そして、スピードにかける情熱。最速で走るためにそれ以外に何が必要ですか? 耳を澄ませば、今にもバートのそんな声が聞こえてきそうだ…。


世界記録という勲章は、近道をすることも、ズルをすることも、既成の概念に縛られることも、自分を見失うこともなかった、バートの完璧なまでな方程式によって導かれたものである。


ところで、この作品にはもうひとつ魅力がある。それは、バートの人間的な魅力を描いているということ。


とくに、ニュージーランドの自宅を出発してからボンヌビルにたどりつくまでの旅路のなかで垣間見せる彼の素顔——単なる偏屈極まりないバイク馬鹿ではなく、愛すべきキャラクター——が実にほほえましい。


道中、バートはさまざまな人と出会い、交流を深めていく。たった一人でアメリカに乗り込んだにもかかわらず、バートの周りには自然と人が集まり、そして、彼に助けの手を差し伸べるのだ。


それは映画だからでも、彼が老人だからでも、見知らぬ地で右往左往していたからでもなく、実在のバートのもつ頑固さや骨っぽさの裏側にある温厚かつ誠実な人柄を、人々がテレパシーのように受け取るからなのだろう。


本作は、ボンヌビルにたどりつくまでの、バートのほのぼのとした良心的な日常を克明に描くことにより、スピード狂によるサクセスストーリーという枠を大きく飛び越え、ロードムービーとしても深みのあるものになっている。


エベレストの山頂にも匹敵するわずかな一点を夢見て、人生を貫くバートの姿に、多くの人は心打たれるだろう。そして、自分の内にある好奇心と真正面から向き合い続けた人間に対して、羨望のまなざしを向けずにはいられないだろう。


常識にとらわれることはそんなに大事だろうか? 貧乏はそんなに怖いことだろうか? 孤立することはそんなに怖いことだろうか? 周囲から哀れみの目を向けられることはそんなに痛ましいことだろうか?


そんな問いかけに、バートは、否、と答えている。バートの勇気と優しさと一途さと愛を映し出した映画「世界最速のインディアン」は、夢に向かって歩く人生の醍醐味と、自分に正直に生きることの素晴らしさに、満ちあふれている。


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