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No.2「イカとクジラ」

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 銀幕をさまよう名言集!  No.2  2008.1.11発行 

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2005年/アメリカ 「イカとクジラ」より


夫婦そろって作家。
かつて脚光を浴びた夫は、
出口の見えないスランプに見舞われている。
一方の妻は、華々しいデビューを飾ろうとしていた。
ふたりの関係は最悪だ。
夫は妻をねたみ、妻は夫を軽蔑している。


夫婦のひずみが、ふたりの子供にも暗い影を落とす。
兄(16歳)には妄想的な思想と行動が見受けられ、
弟(12歳)は自らを「俗物」と呼び、飲酒や屈折した自慰にふける。


物語の前半で、父を崇拝する兄が、
父がかつて書いた本を見つけ、
父に「これ、くれる?」と訊く。
父が「ああ」と了承すると、
兄は「なにかひとこと書いて」と、その本を父に手渡す。


父は本を受け取ると、ペンを走らせる——


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      悪運を祈る。パパより                  

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この言葉には、父の作家(芸術家)としての
過剰なプライドや自意識が見え隠れする。
父のことを崇拝する兄を満足させようという意図もあったのかもしれないが、
どちらかといえば、奇をてらったことを書くことで、
己というたぐいまれな才能をひけらかし、
ダレかに(このシーンでは兄に)認めてもらいたいという、
そんな心の渇きが読み取れる。


しかしながら、この「悪運を祈る」が、
物語のなかでは現実のものになってしまう。
兄だけでなく、家族全員が悪運と仲良く手をつなぎ始めるのだ。
小説家であれば“言霊(ことだま)”について考えたことくらいあるだろう。
言葉とは意思であり、人間は意思に忠実に歩みを進めるものだということを。
あるいは彼の本が売れなくなったのは、
そうした悪意のある言葉を、
安易に使ってしまうような精神状態だからなのかもしれない。


      悪運を祈る。パパより


改めて思い返すと、この言葉は、父本人の内なる叫びだったのかもしれない。
自分は悪運のなかにいる! ダレか助けてくれ!
そんな悲痛な父の叫び声。
だが、父はその叫びを、あまりに歪んだカタチで書き記してしまった。
結果、父の悪運ウイルスは増殖を重ね、なおかつ家族全体に蔓延し、
見ごと神に祈りを通じさせてしまったのである。


もしあのとき父が——


      幸運を祈る。パパより


と書いていたら、家族の未来は少し変わったものになっていたかもしれない。


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●編集後記             
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「イカとクジラ」という作品は、
感情移入できるできないを別にすれば、
人間という不可解な生き物を、とてもよく描いた作品だと思います。
登場人物が、その瞬間に何を思い、どう行動したのか、
ひとりひとりの感情の揺れと動機をしかと見極めながら、
演出を加えていったのでしょう。
それに応えたキャストの役作りも実に見ごとです。


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■銀幕をさまよう名言集! No.2「イカとクジラ」
 
マガジンID:0000255028
発行者  :山口拓朗

●公式サイト「フリーライター・山口拓朗の音吐朗々NOTE」
http://yamaguchi-takuro.com/


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