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物語「ROCK初体験」

2009.8.3


あれは小学校4年生のときだった。


ボクは初めてROCKに出合った。


ROCKといっても音楽ではなく、
生き方としてのROCKだ。


当時、中学1年生だったボクの兄が、
ある友人にまつわるエピソードを話してくれた。


「あいつさ、テストの答えが分からないからって、
 回答欄に『I don`t know』って書いたんだぜ。
 そしたら先生に怒られてやがんの」


I don`t knowが、
「私は知りません」という意味だということを
ボクはそのとき初めて知った。


兄は友人がバカな真似をして
先生に怒られたエピソードを
笑い話として話したにすぎなかったが、
ボクには衝撃的であった。


それは、テストの答えが分からないからといって、
回答欄に「私は知りません」という
挑発的な一文を書いたことへの衝撃だ。


しかも、「英語で」というのがCOOLじゃないの!


大人に反抗したくなる年頃(思春期)には、
まだ少し及ばなかったが、
どうしてだか、
小学4年生のボクは、
その挑発的な一文に、
惚れ惚れしてしまったのである。


そして次の瞬間、
幼い心は、こう決めていた。
「よし、ボクも真似してみよう」と。


ところで、
ボクは「I don`t know」というスペルを知らなかった。
ボクの耳に入ってきた兄の言葉は
「アイ・ドント・ノウ」である。


間違ってはいけないので、
ボクは抜かりなく
「アイ・ドント・ノウ」のスペルを調べて、
いざ、テストに挑んだ。
(どんな挑み方じゃ!)


もちろん、そんな答えを書けば、
点数がもらえないのはもちろん、
先生に怒られる可能性も
相当に高いと承知していたが、
とにかくそのときはROCKな
生き方をしてみたかったのだ。
(どんな生き方じゃ!)


理科だったか算数だったか社会だったか、
それは忘れたが、
ボクはある回答欄に、
ROCKなその一文を書き込んだ。
ボク的社会への反抗第一歩。
へへへっ。


後日、テストが返却されるときは、
さすがに少し緊張した。
先生の反応が気になった。


一人ひとり名前が呼ばれて、
先生のところにテストをもらいにいく。


ボクの名前が呼ばれた。


先生のところへ行くと、
案の定、先生が切り出してきた。
「これはどういうことだ?」
ボクは一瞬間を置いてから言った。
「答えが分からなかったから……」
用意していた答えだった。


先生はじーっとボクの顔を見た。
その時間がやたらと長く感じられた。
ROCKの修行もラクじゃないぜ。


「そうか」
先生はそう言うと、
そのままテスト用紙を返してくれた。
怒られるかと思ったが、
先生の表情は少し笑っているようにも見えた。
小学校4年生の反抗など
相手にしても仕方がないと思ったのか?
「戯れ言」ととられたのか?
大人の余裕だったのか?
ボクのROCK魂が弱かったのか?
理由はよく分からなかった。


少し物足りない気もしたが、
まあ一応、初志を貫徹できたので
ボクは満足していた。
ちょっと大人になった気分であった。


時は過ぎて、ボクは中学1年生になっていた。
中学生になるといよいよ英語の授業が始まる。


たしか1学期だったと思うが、
黒板にある英文が書かれたとき、
脳裏にかつてのROCKな行動が蘇った。
その英文は「I don`t know」であった。
先生は「私は知りません」と訳していた。


ボクはその英文を見ながらボウ然としていた。
先生の声を聞きながら、
ひとりで顔を赤らめ、
下をうつむいてしまった。
ダレにも見られていないのに、
穴があったら入りたい気分だった。


当時を思い返す……。
ボクがあのときテストの回答欄に書いた一文は、
明らかに「I don`t know」とは
別モノだったのだ。
あれほど抜かりなく調べたはずなのに……。


ボクが書いたROCKな一文は——


「aidontonou」


であった。


……


……


……


おい、ダレか、なんとか言ってくれ!


小学4年生のボクにとって
「ローマ字=英語」という理解であった。
ボクは兄から聞いた
「アイ・ドント・ノウ」の言葉を
「アイドントノウ」だと思い込み、
なおかつ、そいつをご丁寧に、
ローマ字表を見ながら、
ローマ字(=当時のボクにとっての英語)に変換したワケだ。


あのとき先生は
「aidontonou」と書き込んだワタシに対して、
「おまえ、テストをなめてんのか?」とも、
「それを書くなら「I don`t know」だろ?」とも言わなかった。
不問に付されたのだ。


ボクは、怒らない先生に対して、
ちょっぴり勝利した気でいたが、
そうではなかった。
先生は何も言わなかったのではなく、
あまりにも子供じみた勘違いに、
何も言えなかったのだ。
あのかすかな笑みは、
きっと笑いをこらえていただけなのだろう。


ああ、なんてことだ、
ボクのROCKデビューが、
完敗だったとは。。。


ボクは3年前の自分に声をかけた。
「無知って怖いな」と。
すると、3年前の自分が、
ROCKスピリットあふれる鋭いまなざしで、
こう言い返してきた(気がした)。


「nopuroburemu!」


だって。


いい加減にしろー!!!

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