「凍(とう)」
2007.10.21

「凍(とう)」 沢木耕太郎著(新潮社・1680円)/2005年刊行
第28回講談社ノンフィクション賞受賞作品。
岩壁やヒマラヤ高峰の先鋭的な登攀(とうはん)で世界的に知られているクライマー、山野井泰史が、中国とネパールの国境のギャチュンカン(7952メートル)にある北壁に、妻の妙子と一緒にアタックしたときの一部始終を描いたノンフィクションである。
名誉のためでも名声のためでもなく、ただ自分が登るに値すると踏んだ山にのみ挑み続けた山野井夫婦の徹底した美学と、卓抜のクライミング技術、そして不屈の精神力を、世界の登山史上類例のないほど過酷さを極めた状態のなかでまざまざと見せつけられる。
8000メートルに近い高所での無酸素登攀、重度の高山病、幻聴幻覚、断崖絶壁でのロープを使ったビバーク、寒さ、雪崩、そして凍傷……、あまりの過酷さに手に汗握るのも忘れて、わがことのように胸が苦しくなる。
そしてまた、その究極のサバイバルのなかで、山野井夫妻の登攀にかける情熱と決して“生”を諦めない前向きな姿勢に感動を覚える。なにゆえ彼らはそこまでしてチャレンジを続けるのか、この本のなかには冒険活劇を超えた、人生哲学が描かれている。
人間の根源に迫るテーマと、沢木耕太郎ならではの、いい意味で抑揚をコントロールした文体と筆致が見ごとにハマっている。沢木流の(ややフィクションじみた)文脈や文学装飾がまったくにおわないわけではないが、この圧倒的な物語の前では瑣末なことにすぎない。
登山をしたことのないひとでも本書は十分に堪能できるだろう。それはここに書かれている世界が、単なる山物語ではなく、人間の極限、人間の幸せ、人間の価値、そして生きる意味までをも考えさせる内容を含んでいるからにほかならない。本書を閉じたとき、山野井泰史にとってのギャチュンカンは自分にとっての何なのか、否が応でも考えさせられるはずである。
夫婦の物語としても非常に尊い。
この不撓不屈のクライマーの物語は、後世まで語り継がれるだろう。
コメントはお気軽に★
おおー「凍」いいですねえ、夫婦とかパートナーって存在が何なのかをあらためて考えさせられます。
そんなハードな山登りできないけど、数泊の山歩きをしていると心すっきりですよ、やまちゃんもどない? と言って僕もまったく行ってませんが。
投稿者つちだ:2007年10月22日 09:13
先輩、こんにちは!
ウワサに違わぬ良書でした。
グイグイ引き込まれましたし、イロイロと考えさせられました。
沢木ワールド(グルーヴ?)も全開でしたし。
たしかに山登りしたくなっちゃいますね。
来年は近場で少し出かけてみよーかなー。
土田さんは、来年、大キレットでしたっけ?
投稿者やまたく:2007年10月22日 19:08