「ライオンキング」
2007.10.29

10年目に突入した劇団四季のミュージカル「
動物たちの王国「プライド・ランド」の王であるライオンのムファサは、遊び盛りの息子シンバに、日ごろから王としての心構えを説いていた。そんなある日、シンバが王位を継承することをよく思わないムファサの弟スカーが、ムファサを殺し、シンバも王国から追放される。ときがすぎたある日、成長したシンバは、幼なじみの少女ナラと偶然にも再会し、荒廃した王国の現状を知らされる。シンバはスカーと対決する覚悟を決め、王国へと舞い戻る……。
「ライオンキング」は、単純明快な勧善懲悪物語であると同時に、少年シンバの成長物語である。子供から大人までもが楽しめる、分かりやすく整理されたストーリーは、寄り道にそれることなく、ほぼまっすぐに道を進む。ヒネリはないが、むしろ、その王道ぶりこそが、自然界を舞台にした本作が目指したところなのだろう。
王国中の人間から尊敬されていたムファサが、息子であるシンバに、自然界を支配するバランスについて説くくだりは、ストレートに心に響く。生けとし生きる者の調和がどれほど大切なものか……。
その調和が、輪廻の世界観にまで及んでいる点にも興味がそそられる。
シンバが故郷に戻るべきか葛藤しているとき、水辺にいたシンバに、亡き父の声が聞えてくる。
「父も祖父もお前の中に生きているよ」
「水に映るお前を見つめている」
シンバは水に映る自分を見つめた。シンバは、自分を見つめる人物は、父であり、祖父であることを実感する。
自分はひとりではない——。シンバはこのときに百万力にも勝る勇気を得たことだろう。
一方、王国を荒廃させた暴君スカーは、調和を乱す悪しき象徴として描かれている。スカーの存在を、環境問題をはじめとした現代社会が抱えるさまざまな“不調和”と重ねることはそう難しいことではない。小さな憎悪やゆがみは、増幅をくり返しながら、やがて悪循環へとシフトしていく。
余談だが、以前にスカーを演じていた劇団四季の俳優が「スカーの左目の傷は幼いころムファサにつけられたもの」と語ったことがあるそうだ。もしこの見解が事実であれば、スカーのなかに孤独な心を見ることもでき、物語にさらに深みが加わる。
そうした物語はさておき、だ。
本作「ライオンキング」の最大の見どころは、劇団四季の演目のなかでも屈指とも言うべき舞台芸術にある。アフリカンアートをはじめ、影絵や文楽といったアジアの伝統芸能、さらにはパペットやマスクを駆使した美術は特筆大書すべきポイントで、サバンナの世界の躍動や尊厳や畏怖を、圧倒的な表現力で見せつける。
なかでも、両手両足に竹馬をつけたキリンや、後ろ脚を人間が担当して前脚はその人間が手で操る棒で表現されたチータなど、驚くべき手法で表現された動物たちは圧巻。加えて、雨や川、星空、草原など、自然にまつわる凝った描写も魅力にあふれ、そのひとつひとつのユニークさと完成度の高さに目を奪われる。フロアからせり上がる高さ4mを誇る「プライドロック」に至っては、舞台装置の醍醐味を十分に味わわせてくれる。
大がかりな舞台装置と緻密な舞台美術を融合させたミュージカル「ライオンキング」は、安易な着ぐるみショーとは大きく一線を画し、自然界およびそこに生きる動物たちを、人間の知恵と技術で表現した唯一無二の舞台芸術であり、そこには人間から自然界へのオマージュが込められている。
ちなみに、自然界の息遣いをダイナミックな音楽に合わせて表現したプロローグとエピローグのパフォーマンスは、神秘的な宗教的儀式を彷彿とさせ、アースコンシャスな本作の神髄に迫る一大絵巻になっている。必見どころだ。
ミュージカルとしては、音楽(とくに歌)のインパクトが弱いほか、中盤、シンバが仲間たちとくり広げるユーモアを重視した演出にやや浅はかさが感じられたが、それらを差し引いても、満足度の高い作品であることに変わりはない。
トラックバック
トラックバックURL:
http://yamaguchi-takuro.com/mt/mt-tb.cgi/207
コメントはお気軽に★
すごいロングランですね。
何年前に行ったのか忘れちゃいましたが
あの舞台装置は本当に日本人の発想を超えていますね!!
どこまでがオリジナルなのかは解りませんが
またあの世界につかりに行きたいです。
思い出させていただいてありがとうございます。
やまたくさんの文章はイメージを沸かせる力があります♪
投稿者ruto:2007年10月29日 19:15
rutoさんも見られたんですね!
舞台装置と美術がスゴかったですねー。
とくに動物たちには目を見張りました。
単純にお面&着ぐるみをつけて、ではなく、
それぞれの動物の特徴をしっかりととらえつつ
予想外の手法で表現していて……驚きでした。
独特なあの世界観、ボクも好きです。
娘がもう少し大きくなったら、一緒に見に行こうかな。
投稿者やまたく:2007年10月30日 11:46