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「エリザベート」

08.12.30

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帝国劇場にて、12月25日で千秋楽を迎えたミュージカル「エリザべート」を観劇。(大阪梅田劇場では09年1月8日~2月2日)


脚本・歌詞:ミヒャエル・クンツエ 音楽:シルヴェスター・リーヴァイ 演出・訳詞:小池修一郎 出演:朝海ひかる、武田真治、村井国夫、高嶋政宏、鈴木綜馬、初風諄、伊東弘美、春風ひとみ、浦井健治ほか


1898年、オーストリア皇后エリザベート(朝海ひかる)が暗殺された。暗殺者はイタリア人の無政府主義者ルイジ・ルキーニ(高島政宏)。逮捕されたルキーニは、刑務所内で自殺を図ったが、死後にも彼には問い続ける声が聞える。「なぜエリザベートを暗殺したのか?」。ルキーニは「皇后本人が望んだから!」と声を荒げる。ルキーニは、自分の主張を証明すべく、黄泉の国の死者たちを蘇らせ、エリザベートの人生を再生する……。


ウィーン発(初演は1992年)、ハプスブルク家が織りなす愛と死のロマンを描いた歴史大作。東宝ミュージカルとしては、2000年の初演以来、通算上演回数600回を数える人気演目だ。


ハプスブルク家というヨーロッパ王族の名門において、伝統的なしきたりや束縛を嫌い、自由な生き方を主張するエリザベート。皇帝フランツがよき理解者ではないと悟ったとき、彼女はいよいよ孤立する。がしかし、エリザベートは、そこで簡単に白旗を揚げなかった。自分を型にはめようとする勢力に屈することなく、強く、したたかに(計算高く!)生き抜く決意をしたのだ。


エリザベートと皇帝フランツとのあいだに流れる深い溝。その溝が生み出した息子ルドルフにまつわる悲劇は、ある意味、エリザベートの人生以上に、エリザベートの人生を象徴したものといえる。皇帝と皇后の確執の狭間で苦しんだうえ、周囲の大人たちに担ぎ上げられ、最後にはポイ捨てされた哀れな運命。彼の満たされずじまいだった一生を思うと、同情と涙を禁じえない。


終盤、夜の桟橋のシーンには、人生の終章にふさわしい静謐さがある。エリザベートに改めて求愛するフランツに対して、エリザベートは今の気持ちを「すれ違う2隻の船」に例えて拒否。最後まで自分らしい生き方を貫く。ふたりが奏でる美しいハーモニーとは裏腹に、決して交わることのないふたつの心が、しんみりとせつなさを誘う。


ところで、このミュージカルは、皇后エリザベートの生涯を描くと同時に、黄泉の国の「死の帝王」トートを登場させることにより、お伽話としても強い印象を残している。折につけ現われるトートは、観客にとってたいへん興味深い存在だが、一方で、その存在理由をどう解釈するかは議論の分かれるところだろう。


ストーカーじみたトートの強烈な片思いが、エリザベートを死に追いやったのか。あるいは、トートの求愛を最終的にエリザベートが受け入れたのか。はたまた、トートとはエリザベートが作り出した心の鏡のような存在だったのか——。皇帝フランツ、皇后エリザベート、死の帝王トートの、あの世とこの世をまたにかけた三角関係は、愛と死の綱引きという、異様にして深みのある甘美な物語を作り上げた。


この日トートを演じたのは武田真治(※ダブルキャストは山口祐一郎)。歌声はやや粘着質ながら、文句なしにハマったビジュアルと色気と演技力でナイーブな「死の帝王」っぷりを見せつけた。また、エリザベートを演じた朝海ひかるは(※ダブルキャストは涼風真世)、皇后らしい凛としたたたずまいが見ごとなだけに、ときどき見られる不安定な音程が……なんとも惜しまれる。歌声という点では、むしろ皇太子ルドルフの少年時代を演じた子役のソレに聴きほれてしまった。


そのほか、ルキーニを演じた高島政宏は、物語の語り部として存在感を発揮。皇帝フランツを演じた鈴木綜馬や、皇太后を演じた初風諄、ルドルフの青年時代を演じた浦井健治らの堅実な演技と歌唱力も光っていた。


家のしきたりや束縛からの解放・自立は、多くの女性にとって違和感なく感情移入できるテーマであり、その舞台が華やかな王家・皇族とくれば、なおさらに目を輝かす人(もちろん女性)も多いはず。音楽のすばらしさも本作「エリザベート」の真骨頂。起伏に富んだ楽曲は、常に場面や歌い手の感情に寄り添うようにあり、観客を魅了する。この演目が長らく愛され続けている理由のひとつだろう。

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