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「ウィキッド」

2007.7.5

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6月17日からスタートした劇団四季の新ミュージカル「ウィキッド」を観劇。


ブロードウェイをはじめ、全米ツアー、シカゴ、ロンドン、ロサンゼルスなど、すべての公演で一度も空席を出したことのないという話題の作品。


人間と動物が同じ言葉を話す自由の国「オズ」の大学で知り合ったふたりの少女。ひとりは緑色の肌と魔法使いとしての能力を持つエルファバ。もうひとりはキュートで美人の人気者グリンダ。対照的なふたりは、初めこそ反発しあっていたが、次第に友情を深めていく。あるとき、動物が言葉を失う現象が起きていることを知ったエルファバは、国から排除されつつある動物たちを守ろうとするが、その行為が裏目となって“悪い魔女”のレッテルを張られてしまう。一方のグリンダは国に明るさと希望をもたらす“善い魔女”として人々の信頼を得る。


名作『オズの魔法使い』に隠されたもうひとつの物語が『ウィキッド』である。


『オペラ座の怪人』であれば、初見で、劇場に棲みついた怪人の苦悩を読み取るのははなかなか難しいが(事前に、怪人の生い立ちをつづった小説『ファントム』を読破しておくのがベター)、『ウィキッド』は、比較的ていねいにストーリーが説明されているため、たとえ『オズの魔法使い』の内容を知らなくても、途中で頭が混乱するようなことはない。


この物語では、他人と外見が違うことで周囲から差別を受けるエルファバと、天性の美貌と明るさで周囲から人気を博すグリンダを通じて、“善と悪”の微妙なねじれを描いている。


周囲から冷遇されるエルファバは、動物たちが排除されることに違和感を覚え、たったひとりで動物たちを救済するために行動を起こそうとするが、“善”な行動を取れば取るほど、周囲からの冷遇は度を増していく。一方のグリンダは、天真爛漫で他人にも優しいが、一方では、常に他人の評価を気にする自意識過剰人間でもある。


この物語の魅力は、エルファバが最後に愛の報いを受け、グリンダが挫折を通じて自身の欠点を克服していく点にある。つまり、ふたりの少女の成長と再生を描くことにより、「本当の“善”はエルファバで、本当の“悪”はグリンダだった!」的な、いかにも分かりやすくありがちな結論を回避しているのである。


エルファバとグリンダ。ふたりの様子をもう少し深く分析してみよう。


エルファバは言われなき差別を受けながらも“悪”に立ち向かう勇敢な存在として描かれているが、よく見ると、被害者意識が極端に強く、どことなく“嫌われ者”であることを諦念として受け入れている感がある。動物の救済ひとつをとっても、彼女にもう少し周囲の理解を得ようという意識があれば、あそこまで孤立を強いられることはなかったのではないだろうか。人間に誤解はつき物である。その誤解を解くための努力をエルファバはどれだけしただろうか? その態度と行動には少なからず疑問が残る。


一方のグリンダは、本音とタテマエを使い分けられるちょっぴり“嫌なヤツ”ではあるが、あるころから、魔法使いとしての資質がないことを自覚するようになり、プライドを深く傷つけられる。また、大好きなボーイフレンドは、よりによってエルファバに惹かれていく……。それらは、すべてが順風満帆で、周囲にちやほやされてきたグリンダにとって大きな屈辱であり、とりもなおさず、自分という存在の“虚構”を見透かされたことになる。


何をいわんや——この物語は、人間を“善と悪”にていねいに二分化したうえで勧善懲悪風の着地を果たしたものではなく、全編にわたり、ふたりの少女に存在する“善(長所)”と“悪(短所)”に均等にスポットを当て、その相反する概念が、そのときどきの立場や環境や境遇によって、ガラリと反転することがある “真実”に言及しているのである。


ためしに、この作品を見た人に、「エルファバとグリンダ、どちらが善でしたか?」、あるいは「どちらが好きですか?」とたずねてみるといい。おそらく多くの人が答えに窮するのではないだろうか。


エルファバとグリンダの対立軸を明確に打ち出した前半であればまだしも、ふたりのあいだに滞っていた険悪な雰囲気が溶解して以降は、あるシーンではエルファバに、あるシーンではグリンダに感情移入している自分に気づく。つまり、この物語は、人間が抱える“善悪”の尺度のあいまいさを浮き彫りにし、そしてまた、(表面的に)対極に立つ者同士が理解し合える可能性が0%ではないという希望までを描いているのである。


感情のおもむくままに放たれる歌声は、ときにセリフをも凌駕する切実さで、心の琴線をふるわす。と当時に、『ウィキッド』は、とにもかくにも舞台美術が素晴しい。次から次へと魔法よろしく変化するセットは、ディテールに至るすべてで精緻な作り込みを実現しているうえ、800個もの照明を駆使して完璧なまでにシーンの雰囲気を作り出している(セットとセットのつながりにさえ劇的な美しさがある!)。この優れた舞台美術と照明技術の目撃者になりうるというだけでも、チケット代を払う価値が十分にある。手抜きの「て」の字すら見当たらないほど見事な衣装とメイクも、また同様に。


物語に置いてきぼりをくらうこともなく、ダレもがリラックスして楽しめるであろう『ウィキッド』。観賞後には、きっと、自分の中にある“緑の肌”や“自意識”に気付き、この一見分かりやすく平易な物語の奥深さがジワジワと身にしみてくることだろう。


来年の公演分を含め、相当なハイペースでチケットが売れているそうなので、観賞希望の方は、くれぐれもソウルドアウトにご注意のほど。


※妻が製作したサイト「ウィキッドを120%楽しもう!」

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