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物語「滋賀のおばあちゃん」

2004.9.13


大阪在住の70歳前後と思われる女性から私の携帯に電話があった。
「もしもし、○○かいな?」と身に覚えのない名前を言うので、
私は「違います」と答え、この電話番号を3年以上使っていることを伝えた。


すると、おばあちゃんは「あら、イヤやわー、おかしな話しやでー」
「やっぱおかしーわ。息子から聞いたやさかい、この番号」と言う。
「おそらく聞き間違いでは?」と私が言うと、
「だって一度はつながっりはったんよ」とおばあちゃんは譲らない。
電話番号を読み上げてもらったが、番号に間違いはない。


しかし、この番号が私のものである以上、
「だって一度はつながっりはったんよ」は、何かの勘違いとしか言いようがない。
「おかしな話しやでー」は、こっちの言うセリフだ。


早々に切ってしまおうと思ったが、
おばあちゃんは「ほんま、イヤやわー」をくり返し、
しまいには「ところでお宅さんどちらさん?」と私の素性を聞いてくる。


途中で気づいたのだが、このおばあちゃん、最初から私の話に聞く耳などもっておらず、
【この番号は息子の携帯だ。だからこの男は何らかの事情で、
息子の携帯を使っているアヤシイ男】と判断していたようなのだ。


いよいよめんどくさい展開になってきた。
でも、なんとなくその口調に人の良さがにじみでていたので、
もう少し付き合ってみることにした。


と、何を思ったのか「あなたもしかして千葉に住んではる?」と妙なことを聞いてくる。
「住んでいませんよ、埼玉です」と答える。
「今おいくつなの?」……
……だんだん取り調べのようになってきたので、
「ところで息子さんはどこに住んでるんですか?」と逆に私が聞き返すと、
「滋賀県におる」とのご回答(なんやねん、それ!)。


いろいろ訊いてみると、おばあちゃんの息子は30代後半の独身男性で、
滋賀で働いているらしいのだが、ぜんぜん連絡をしてこないのだという。
「こっちから連絡しないと、絶対連絡取ってきーへんのや」とおばあちゃん。
「何考えとるのか、ホンマ分からないわー」
なるほどねー。でも、知らないっつうの。


「どうなってんやろーね、きょうびの世の中」
「ホンマにイヤやわー、怖いわー、ぶっそーやわ」
どうやら息子に対する不信感と世の物騒さで、頭が混濁しているようだ。
おばあちゃんの発言が誰に向けられたものかはよく分からなかったが、
その物騒な世の中の主人公(でも悪役)に祭り上げられそうになっているのが
私であることは間違いなさそうだった。


やれやれ。
私はオタクの息子から携帯を盗んだこともないし、
偽装をしたことも(ダレかに依頼されたことも)ないし、
ましてや息子を誘拐や殺害した記憶もない、と強く心で抗議する。


「本当にぶっそうな世の中ですから、おばあちゃんも気をつけてね」と
私が一方的に切り上げようとすると、
おばあちゃんもようやくあきらめた(というかストレス発散できた)らしく、
「ホンマにそうや。付き合わせてごめんね。おおきに」と電話を切った。


世の中いろいろなことがあるものだ。


電話を切ってから、いろいろと考えてみたのだが、
もし私が「おー、おれおれ! ちょっと100万円送ってくれない? 口座は…」と言えば、
おばあちゃんはきっと送ったかもしれない。
いや、今からでも「実は私、○○君の友達で……これこれこういう事情で……
……100万円送ってくれませんか?」と言えば
送ってくるような気がする。
この番号を息子のものだと信じ切っているおばあちゃんをだますことは、
とてもたやすいように思えた。


うーむ、実に危うい。
そんなことを考える私の邪悪な思考は置いておくとしても、
おばあちゃんの思い込みは、どうにも危うさに満ちている。


判断力が鈍る年寄りにとって、
電話というのは大変危険な地雷だということを実感。
なるほど世の中に「おれおれ詐欺」がまかり通る訳だ。


世のおばあちゃん方、くれぐれも気をつけたし。

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