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物語「浮気性の彼氏」

2004.1.14


夜、ミスタードーナツで原稿を書いていると——


ハタチくらいの女の子が泣きそうな顔で店に入ってくる。


席につくやいなや携帯で友達に電話をかける。


「どうしよう。今ね、彼氏を見ちゃったの。
今日はふじみ野なんかにいるハズないのに……歩いててさ。
なんかビックリして声かけられなくてさ……」


「えー、そうかな、心配しすぎかなー? でもなんでふじみ野にいるんだろー。もうやだー。
なんかもうドーナツなんて食べてる場合じゃないよ……サイアク。ほんとヤバイ」


約30分にわたり、わが身に起こった不幸を必死に話す。
彼女にあるのはもはや彼氏の行動に対する疑念のみ。


電話を切り終えると、また別の友達に30分電話。
内容は同じ。
不幸な我が身を徹底的にアピール。


電話を切り終えると、また違う友達に電話。
こんどは20分。
どうやら話のツボが押さえられるようになってきたらしい。


この時点でオレの頭で彼氏の悪者像が完成している。
彼氏は何をしでかしたのだろう?
話から推測するに、前科ありの浮気性か?


悲しいかな、近くの席で3回も同じ話を聞かされたオレは
彼女の訴えをソラで言うことさえできるようになってる。
4人目にはオレが電話してやってもいいくらいだ。


だが……3人目の電話を切り終えると、どうやら彼女は覚悟を決めたらしい。
大きく深呼吸をしてから、彼氏に電話をかける。


「もしもし、今どこ?」
「えっ、ふじみ野なんだ。ああ、そうなんだ。うんうん、ああそうなんだー(笑)やだーも〜う」
彼女は喜々として電話を切り、すっかり冷めきったコーヒーを美味しそうにすすった。


オレは思った。
若者には時間があるのだ。
その豊富な時間をいかにドラマティックに染めるかが最大の関心ごとなのだ。


きっと。


彼女に対して、
「最初から彼氏に声をかけんかい!」
あるいは
「最初から彼氏に電話せんかい!」
あるいは
「やだーも〜うはこっちのセリフじゃ!」
などとツッコミを入れるのは、無粋というやつなのだ。


だって彼女たちは青春のまっただ中にいるのだから。
その邪魔をする資格は大人にはない。


きっと。


そう、きっと。

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