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物語「うんめいのでんわ」

2006.7.31


会社勤めをしていたころのこと。


転職希望先(A社)に履歴書を送ったことがある。


そんなある日の休日。


トイレで「大」をしているときに、自宅の電話がけたたましく鳴った。


プルルル〜。


ボクが直面している事態が「小」であるならば、


ソッコウで用を済まし、電話に出るという選択肢は残されていただろう。


まあ、手まで洗えるかどうかは分からないけど(たとえその時間があっても、実際に洗うかどうかはさらに疑問だけど)。


まあ、鳴ったのだ、電話が。


くどいようだが、事態は「大」である。


そう簡単には出られない。


いや、この重要な局面、そうやすやすと出てなるものか、という頑固さもあった。(注:出るとか出ないとか、頑固とかそうじゃないとかいうのは、電話の話だよ)


プルルル〜。


電話が留守電に切り替わった。


応答メッセージの後、留守電に吹き込まれる声が聞こえてきた。


「もしもし? いないの? もーう!」(不機嫌そうに受話器を切る音がする)


妻であった。


家にいるはずの夫が電話にでない。


なんの用件かは分からないが、妻はかなりイラ立っていた。


“イラ立つような出来事があった+電話に出ない夫へのイラ立ち”といったところだろうか。


本当は家にいるだけに、「もーう!」とか言われて、なんとなく怒られ損な夫ことワタシ。


仕方ないではないか。


高校野球風に言うならば、「ホームベースが遠かった…」のである。


次の瞬間、トイレのなかでけたたましく携帯電話の音が鳴った。


ズボンのポケットに入れておいた携帯が鳴っているのである。


まるで妻の苛立ちが乗り移ったかのような、けたたましさ。


自宅に「もーう!」のメッセージを入れて電話を切ったのち、即座にワタシの携帯に電話をかけたのだろう。


一連の流れからして、ほぼ妻の第一声が想像できる。


「もしもし」のあいさつもなく、「いまドコ?」と不機嫌極まりない言葉をぶつけてくるはずだ。


冤罪を主張したくてウズウズしていたワタシは、ズボンの中から携帯を取りだすやいなや、間髪を入れずにこう言ったのである。


「あのさ、いまウン○してるんだけどさ!」


先制攻撃成功。


ワタシとて、やるときはやるのである。


これで謎(電話に出なかった理由)が解けた妻も、少しは落ち着いて「あっ、家にいたんだ…」と、トーンダウンすることだろう。


さて妻の第一声を聞こう…。


数秒の沈黙があってから、ワタシの耳に聞こえてきたのは——


「……あのー、A社人事部のBという者ですが…」


ガーーーン!


人生最大の大失策。


携帯を鳴らしたのは、妻ではなく、ワタシが数日前に履歴書を送ったA社の人事担当だったのである。


さて、このとき皆さんならどうします?


T


H


I


K


N


G

T


I


M


E


ワタシはこうしました。


切った。


もちろん、携帯電話をさ。


理由はワタシの反射神経クンに聞いておくれ。


でも、この判断は今ふり返っても、かなり賢明だったと思ってます。


だって、どう言いわけするのさ。


なんの前置きもなく、「あのさ、いまウン○してるんだけどさ!」と言ったことを。


細かく説明するのもアホみたいだし、第一、そんな非常識なやつを企業が採用してくれるわけもない。


だから切ったのである(言葉にすると長いですが、かなり瞬間的な行動でした)。


たぶん人事担当のBさんも相当困惑したと思います。


まあ、人生において、第一声で「あのさ、いまウン○してるんだけどさ!」と言われた経験もないだろうし、ましてや、名を名乗ったら、電話を切られたんだから。


おそらく履歴書に書かれている電話番号と、発信履歴を確認して、自分が間違い電話をかけたのではないことを確認したことでしょう。


正直、人事担当者としては、そこで判断を下してもよかったと思います。


不採用、と。


が、人事担当のBさん、寛大な方(チャレンジャー?)でした。


約10分後にもう一度、携帯に電話をくれました(その10分という微妙なマに、Bさんの迷いが読み取れましたが…)


ワタシは電話に出ました。


「もしもしヤマグチです」


もちろん、なにごともなかったかのように。


いや、ワタシも再びBさんが電話をかけてきるまでの10分間にいろいろ考えましたよ。


正直に詫びようかな、と。


けど、詫びるにしても、ワタシが発した言葉があまりにも悪すぎました。


ヘタすると、詫びてるうちに、吹きだして大笑いするかもしれない。


なので、Bさんが先刻の話を持ちださないかぎり、なにごともなかったようにふるまうことに決めました。


Bさんは、先刻の話には触れませんでした(そりゃそうか)。


まあ、超楽観的な見方をするならば、0.0007%くらいの確率で、“混線”なんてものがあったかもしれませんしね(ないっつうの)。


それにしても、ワタシが人生において、他社への転職を希望したのは、その一度限り。


そのわずか一度の、人事担当から受ける電話を、この絶妙のタイミングで受けてしまうあたりに、人生のアヤのようなものを感じてしまいました(どんなアヤじゃい!)。


ちなみに、転職は失敗(ワタシを採用しなかったA社さん、大変賢明です)。


なんにせよ、ワタシがトイレに入るタイミング、妻が自宅に電話してきたタイミング、A社のBさんが携帯を鳴らしたタイミング。このいずれかがズレていたならば、あれほどアホ丸出しな悲劇は起きなかったでしょう。


思い込みとは恐るべし。


教訓。


トイレに携帯は持っていくな…。


あ、違うか。


留守電直後の携帯は凶…


これも、違うか。


そうそう。


携帯電話に出る前に、相手を確認すること!


トーゼンだろうが!!!

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