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ある銀行のオカシな綱紀粛正

2004.3.5


行員が顧客から預かった約3億3000万円を私的流用していた事件で、宮崎太陽銀行が、不祥事防止策の一環として、約40項目におよぶ風紀チェック項目を作成したという。


「つめの長さは手のひら側から見て2mm以内」「口紅は赤またはピンク系」「シャツやネクタイは派手な色を避ける」「外出時には『行ってきます』、外から帰った人には『おかえりなさい』と声をかける」「執務中、机の下で足を組んでいませんか」など。


チェック表は54の全店舗・出張所に配り、各支店長らが「風紀委員」となって検査をするそうである。同行曰く「中学生でもわかることだが、基本の積み重ねでモラルを向上させたい」。


大時代もはなはだしい。この風紀チェックが犯罪の防止になると本気で考えているとしたら、預金者は今すぐ口座の解約を、お金を借り入れている債務者は、今すぐ借り換えするのが賢明だろう。


「森を見て木を見ず」という言葉があるが、この馬鹿げたパフォーマンスは「木」のみならず「森」すら見えていない。盲目といっても過言ではない。


事件から一体何を学んだというのだろう?


なにも、作成した風紀がデタラメだと文句が言いたい訳ではない。ただ、これほど大きな事件を経たにも関わらず、大事なことが「モラル」の裏側にある「意味」であることに気づいていないのは、恐怖とさえいえる。せめて、身だしなみや勤務態度の綱紀粛正が、犯罪の軽減にどのような役割を果たすのか、その説明が社員になされていることを祈るばかりだ。


おそらく犯罪を犯した人間は、「外から帰った人には『おかえりなさい』と声をかける」ことは実践できたしても、「なぜ、そうする必要があるのか」を理解していない人ではなかったか。あるいは、「つめを短く揃える」ことはできても、「なぜ、そうする必要があるのか」を理解していない人ではなかったか。


殺人者とて然りだ。彼らは決して「殺人をしてはいけない」法律を知らなかった訳ではなかろう。「なぜ、殺人をしてはいけない」かを理解していないから、人を殺めることができるのだ。命の重さを知らない人に、「殺人をしてはいけない」といったところで、その人が殺人者になりうる可能性が薄まるハズもない。


風紀項目で企業の体質が変わるくらいなら、その項目のなかに「顧客の預かり金を私的に流用してはいけない」と一筆書いておけばいいではないか。


と皮肉の一つも言いたくなる。


今回のパフォーマンスは、生徒に対する一方的な規律を押しつける学校や、子どもに無理強いをする親の無知と傲慢に似ている。そういうことが「なぜ」に疎い人間を育んでいるという現実にまったく気づいていない。


どうせ教育をするのであれば、風紀チェック表を各店舗に配るというお粗末なやり方ではなく、社員の意識調査を実施したうえで、社員を納得ができるカタチの講義やセミナーを開催したほうが、幾分ましではなかったか。


これほどの事件を経ながらも、銀行ほどの企業が、その原因のなんたるかを突き止めていないとしたら、この国は相当にひどい大患を抱えていると言わざるを得ない。


繰り返しになるが、大事なのは「モラル」ではなく、「モラル」の裏側にある「意味」である。「意味」なき「モラル」は、「モラル」とは呼ばない。「欺瞞」と呼ぶ。

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