山口拓朗公式サイト

No.28「ホテル・ルワンダ」

Pocket

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
  
 銀幕をさまよう名言集!  No.28  2008.7.5発行 
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


2004年/イギリス・イタリア・南アフリカ 「ホテル・ルワンダ」より
1994年、アフリカのルワンダでは、
フツ族とツチ族の内紛が続いていた。
やがて、フツ族大統領暗殺の報道が流れると、
フツ族によるツチ族への虐殺が始まった……。
外資系高級ホテルの支配人ポールは、
フツ族、ツチ族を区別することなく、
命からがら逃げてきた人々をホテルにかくまい、
虐殺行為から彼らを守るべく東奔西走した。
物語の前半。
フツ族の虐殺行為がまだ世界に知れ渡っていないころ、
あるジャーナリストが、
虐殺行為の決定的瞬間をテレビカメラに収めて、
ホテルに戻ってきた。
彼はすぐさまVTRを部屋のビデオデッキに差し込んだ。
たまたま同じ部屋に居合わせた主人公のポールは、
再生したビデオ映像を偶然目にする……。
その晩、ポールとジャーナリストが、
ホテルの館内でばったりと顔を合わせた。
ジャーナリスト:「すいません、先ほどはあなたがいるとは知らず、
         (あんな残虐な)映像を再生してしまって……」
    ポール:「いいえ、感謝しています。
         あの映像が(ニュースで)流れれば、
         世界が私たちを助けてくれるでしょうから」
ジャーナリスト:「……もし助けてくれなかったら?」
    ポール:「いや、あの残虐行為を見れば、必ず助けに来るでしょう」
ジャーナリストはひと呼吸置いてから、静かに言葉を返した。
        「世界の人々はあの映像を見ても——
☆★☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
         “怖いね”というだけで、ディナーを続けるでしょう」            
     
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆★☆
ポールは返す言葉もなく、ア然とした表情で立ちつくす。
重たい言葉である。
テレビをつければ、毎日新しいニュースが流れている。
殺人、戦争、自殺、天災、事故……。
不幸な出来事が、日々更新され、
視聴者の目の前を通り過ぎて行く。
まるでベルトコンベアで運ばれる荷物のように。
私たちは、その映像を見ながら、
顔をしかめ、恐怖や怒りを覚え、ときに涙さえ流す。
だけど、次の瞬間、携帯電話が鳴れば、
「やあ元気?」とごく普通に話をスタートさせられるし、
テレビのチャンネルをバラエティ番組に合わせれば、
腹をよじらせて大笑いしたりもする。
そう、ニュースのことなど、大抵すぐに忘れてしまうのだ。
それがどれくらい罪なことなのかは、
正直なところ、よく分からない。
だけど、きっと私を含めた多くの人間は、
より身近なところからしか、
手を差し伸べることができないのではないだろうか。
身内が困っていたら……
きっと手を差し伸べるだろう。
友人が困っていたら……
きっと手を差し伸べるだろう。
では、友人の友人が困っていたら……
場合によっては手を差し伸べるかもしれない。
では、友人の友人の友人が困っていたら……
おそらく手を差し伸べることまではしないだろう。
もちろん、ニュースでくり返し取り上げられるような
大きな災害や事故に対しては、
ときとして、何かしてあげたいと、
募金箱にお金を入れるようなこともあるかもしれない。
だけど、それは世界中で起きている不幸の、
ごくごく一部にすぎない。
私たちは、ベルトコンベアで運ばれて来る種々雑多な不幸の99.999……%を、
ただ見過ごすことしかできない。
だけど、それをもってして、
自分に“無責任”のレッテルを張るのは、
少々正義ヅラがすぎるかもしれない。
世界で起きる不幸の数々について、
基本的に私たちは、具体的に手を差し伸べることができない。
そのことを責めても仕方あるまい。
とはいえ、だからといって、
感情や感覚までをもスルーしていいものだろうか?
たとえ具体的に手を差し伸べることができなくても、
そこには、自分にとって貴重な何らかの学びがあるはずであり、
個人レベルにおいて、そこから学んだ教訓を、
日々の生活に生かすことはできるのではないだろうか。
具体的に手を差し伸べないことと、
そのことに対して無関心であることは、
似て非なるものではないだろうか。
        「“怖いね”というだけで、ディナーを続けるでしょう」   
このセリフに対して、返す言葉は、
主人公のポール同様、ない。
きっと私もディナーを続けるだろう。
だけど、ディナーを続けながら、
(いや、ディナーが終わってからでもいいが)
ほんの少しでも、そのニュースの意味について考えられたら、と思う。
殺人をしないためには、どうしたらいいのか?
戦争を起こさないためには、どうしたらいいのか?
自殺を食い止めるには、どうしたらいいのか?
天災の被害を最小限に食い止めるためには、どうしたらいいのか?
事故に遭わないためには、どうしたらいいのか? と。
「“愛”の反対は“無関心”だ」と言ったのは、
マザー・テレサだっただろうか。
たとえ、助けの手を差し伸べられない場合でも、
そのニュースを“対岸の火事”と無視するか……、
貴重な教訓として受け止めるか……、
そのいずれを選ぶかは大きな違いなのかもしれない。
それこそ、“愛”と“無関心”の違いくらいに。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●編集後記             
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
テリー・ジョージ 監督、ドン・チードル主演の
本作「ホテル・ルワンダ」は、
3ヶ月で100万人もの人間が殺された史実に基づいた作品です。
虐殺を傍観する国際社会や、暴徒化する民衆、賄賂で動く軍隊……など、
人間の凶暴さや卑劣さや弱さを浮き彫りにする一方で、
勇気ある主人公の行動を通じて、
見る者に人の命の尊さを突き付けてきます。
果たして、
         世界の人々はこの映画を見ても——
         “怖いね”というだけで、ディナーを続ける
でしょうか?                   
おそらく、ディナーは続けるでしょう。
ただし、多くの人が、テーブルに並べられた食事と一緒に、
この映画に込められたメッセージを、
咀嚼し、飲み込み、自分なりに消化しようとするのではないでしょうか。
それは、どんなニュースよりも、
この映画が、無関心でいられなくなるほど強い光彩を放った、
価値ある作品だからです。
************************************
■銀幕をさまよう名言集! No.28「ホテル・ルワンダ」
マガジンID:0000255028
発行者  :山口拓朗
●公式サイト「フリーライター・山口拓朗の音吐朗々NOTE」
http://yamaguchi-takuro.com/
************************************

記事はお役に立ちましたか?

以下のソーシャルボタンで共有してもらえると嬉しいです。

 ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓
Pocket