No.43「パリところどころ」
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銀幕をさまよう名言集! No.43 2009.1.25発行
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1965年/フランス 「パリところどころ」より
ヌーヴェル・ヴァーグを代表する監督たちが、
パリの街と、そこで暮らす人々を題材に短編を撮影。
その作品を並べたオムニバス映画だ。
第五話「モンパルナスとルヴァロワ」では、
あのジャン・リュック・ゴダールも脚本を担当している。
6話ともそれぞれに
味わいのあるエピソードだ。
皮肉めいた作品あり、
自虐めいた作品あり、
スリリングな会話あり、
意外な展開あり……。
第二話「北駅」などは、
15分近い長回しと一瞬の劇的さを対比させた
素晴らしい出来映えだ。
各作品に登場する人物たちの個性も、
実にアクが強い。
ある人はプライドが高く、
ある人は寡黙で、
ある人は神経質で、
ある人はふてぶてしく、
ある人はお調子者で……。
クロード・シャブロルが監督した
第六話「ラ・ミュエット」は、
パリの高級住宅地に住む
ブルジョワ家庭の悲劇を描いたものだ。
少年の家庭では、
両親の夫婦げんかが絶えなかった。
リビングでもダイニングでも、
顔を合わせば、いつも口げんか。
母親はいつも愚痴ばかりだし、
父親もごう慢でエゴイストだ。
少年はその口げんかを、
いつも黙って聞いている。
「やめてよ!」とも
「うるさい!」とも言わずに。
“親の心子知らず”とは言うが、
そのまったく逆だ。
少年はあるとき、
家のなかで「耳栓」を見付ける。
その耳栓には説明書がついていた。
少年はそれを口に出して読む——
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「『どなたの耳にも合うよう形が変わります。
どんな騒音も遮り、鼓膜に振動を与えません。
騒音は現代文明の代償ともいえますが、
神経衰弱の主たる要因です。
病人や神経過敏症など、騒音に悩む人、
静寂を求める知的労働者に最適です。
常時騒音のなかで働く精錬業や鉄工業、
ボイラー室、各種工場、鉄道などでも必需品です。
毎日騒音を聞き続けると聴力が衰えます。
鼓膜を守りましょう』
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少年は、耳栓をする。
両親の前でも耳栓をしてみたら、
けんかの声がまったく聞こえなくなった。
彼はしばらく耳栓生活を送ることにする……。
一般的に騒音は、
「dB(デシベル)」という単位で表される。
よく聞くのが、
「電車が通るガード下は100 dBくらい」
というやつだ。
おそらく両親の夫婦ゲンカは、
騒音レベルでいえば、
70 dBくらいだろうか。
騒音数値としては、
さほど高いものではないし、
ましてや、
耳栓をしなくても、鼓膜に問題はないだろう。
でも、少年は耳栓をする。
そう、彼にとっての騒音は、
音の大きさウンヌンではなく、
“両親の不毛なケンカ”という
音の中身というか、状況そのものにある。
他人の口げんかを毎日聞かされて、
楽しい人はひとりもいないだろう。
ましてや、それが自分の身内ともなれば、
ヘタをすれば神経症になりかねない。
見るからに内向的な少年。
彼の体のなかでは、
両親の夫婦げんかの声(不協和音)が、
断続的に鳴り響いている。
“常態化した不毛な夫婦げんか”自体が、
少年に対する両親の関心の低さも示しており、
なんともいたたまれない。
彼にとって、両親の夫婦げんかは立派な騒音。
彼は耳栓をするに値する有資格者だ。
もちろん、耳栓をすることによって、
彼の騒音問題が根本的に解決するわけではないが、
当面の対処療法としては、
実に有効ではないだろうか。
いみじくも説明書にはこう書いてある——
騒音は——神経衰弱の主たる要因です
不毛な夫婦げんかのために、
自分の神経をすり減らすことはない。
世の中には、
dBでは計測できない騒音に悩まされている人が、
少なからずいるのだろう。
家で。会社で。街のそこかしこで。
そうした人たちにとって、
静寂は至福であり、
耳栓は、鼓膜ではなく、
心を守るのに高い効果を発揮する。
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●編集後記
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人が耳栓をしたいと思ったときは、
おそらく、すべきなのでしょう。
それが体の自然な反応なのであれば。
ただし、あらゆる事に耳をふさぎ始めると、
現実逃避が慢性化し……、
ということもあるかもしれません。
騒音回避と現実逃避の区別は、
しておくべきなのでしょう。
「耳栓なんてしたいと思ったこともない!」
という方は、幸せだと思います。
でも、そういう方は、
自分が誰かに耳栓をさせていないか、
そのことについても、
少し考えてみるといいかもしれません(笑)
自分にとって騒音ではないことが、
他人にとって騒音であるということは、
よくある話です(実際のdB問題としても)。
あなたのダンナさんは、
あるいは奥さんは、
はたまた
両親は、子供たちは、恋人は、友達は、
耳栓サインを出してはいませんか?
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■銀幕をさまよう名言集! No.43「パリところどころ」
マガジンID:0000255028
発行者 :山口拓朗
●公式サイト「フリーライター・山口拓朗の音吐朗々NOTE」
http://yamaguchi-takuro.com/
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