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No.49「市民ケーン」

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 銀幕をさまよう名言集!  No.49  2009.6.16発行 
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1941年/アメリカ 「市民ケーン」より
新聞王にして大富豪、
チャールズ・フォスター・ケーンの
波瀾万丈な生涯を描いた名作中の名作。
65年以上も前に製作された映画だが、
当時絶賛されたプロット(筋立て、構成)は、
今見ても称賛に値する。
「市民ケーン」のプロットに似た映画が
今もなおたくさん作られていることが、
この映画の価値を示している。
プロットもさることながら、
愛に飢えたひとりの男の孤独と哀愁を、
表現したドラマがまたすばらしい。
スーザンは、ケーンの再婚相手だった。
結婚生活を送るなかでスーザンは、
ケーンの愛が自分に向けられていないことに気づく。
ケーンの愛は、
ケーン自身の心の渇きを満たすためにあるのだと知る。
ケーンに対する不満が、
臨界点に達したある日のこと。
スーザンはケーンに不満をぶつける。
スーザン 「(あなたは)あなたの大事なものはくれないのよ」
ケーン  「もうおやめ」
スーザン 「やめないわ!」
ケーン  「やめろ!」
スーザン 「(あなたは)私を買ったのよ。
      私の愛が欲しかったからよ」
ケーン  「……私はお前を愛している」
スーザン 「愛していないわ。
      私の愛が欲しいのよ」
続けてスーザンは、
ケーンの口ぶりを真似して言う――
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     「私はケーンだ。
      おまえの欲しい物は何でもやる。
      だが、私を愛してくれ」
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次の瞬間、
ケーンはスーザンの頬をはたいていた。
このやり取りの以前には、
ケーンの心の渇きを示すエピソードが、
連続して(しかもたくさん)描かれている。
ケーンは、
たいして歌がうまくないスーザンに、
ほとんど無理やり歌を歌わせ、
巨大なオペラ劇場まで建設する
(スーザンはそこで歌を歌うが、
 世間からさんざんな酷評を受ける)。
「もう歌いたくない」というスーザンに、
それでも「歌え」というケーン。
スーザンは自殺を試みるも失敗。
その後は自宅の屋敷に幽閉され、
何をするにもケーンの言いなり。
自分の意思で遊びに出かけることさえできない。
     「私はケーンだ。
      おまえの欲しい物は何でもやる。
      だが、私を愛してくれ」
そう、ケーンの「愛」は条件付き。
「愛」という名の「束縛」だ。
ケーンには、これまでの人生、
自分のことは常に自分で決めてきたという自負があった。
ところが、“自分に与えられる愛”までを、
自分でコントロールしようとしたところに、
悲劇を招く落とし穴があった。
もちろん、ケーンを責めるのは簡単だが、
ケーンがそうした屈折した「愛」に
身を委ねるようになったのは、
ケーンの生い立ちと無関係ではない。
観客はそれを知っているから、
屈折した「愛」しか行使できないケーンに、
思いがけず同情を寄せてしまうのだ。
無償の愛を与えられてこなかったケーンが、
他人に(いや、身内にさえ)
無償の愛を与えることができない。
それは一体誰のせいなのだろうか?
簡単に答えが出せるものではない。
ケーンは親元を離れて以来、
ずっと大金持ちだったが、
お金持ちであることで、
彼の心が満たされたことは、
おそらく一度もなかったはずだ。
本当は、寂しかったのだろう。
本当は、抱きしめられたかったのだろう。
本当は、愛されたかったのだろう。
幼くして親と離別などしたくなかったのだろう……。
だけど、そう思う一方で、
弱音を吐くことも、
素顔を見せることも、
甘えることもできなかったのだ。
誰に対しても。
ケーンは生涯を通じて、
お金やモノ、地位、名誉など、
あらゆる物を手に入れたが、
結局、一番欲しいと思っていたものを
手に入れることはできなかった。
少年時代に見失った「愛」という探し物を。
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●編集後記             
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本作「市民ケーン」の終盤で、
ケーンの人生を取材していた編集者が、
こんなセリフを残します。
「人の一生を説明する言葉はない」
たしかに人の一生は語り尽くせません。
文章でも、映像でも、物語でも。
ただし、「人の一生」の“趣”みたいなものを
におわせる作品はあると思います。
たとえば「市民ケーン」という映画がそれです。
芳醇な銘酒のような味わいがあります。
製作・脚本・監督・主演を
製作開始当時24歳だったオーソン・ウェルズが兼任。
アカデミー賞(1941年度)では、
作品賞を含む9部門でノミネートされ、
脚本賞を受賞しました。
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■銀幕をさまよう名言集! No.49「市民ケーン」
マガジンID:0000255028
発行者  :山口拓朗
●公式サイト「フリーライター・山口拓朗の音吐朗々NOTE」
http://yamaguchi-takuro.com/
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