山口拓朗公式サイト

No.54「歩いても 歩いても」

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 銀幕をさまよう名言集!  No.54  2009.11.1発行 
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2008年/日本 「歩いても 歩いても」より
15年前に亡くなった兄の命日に、
横山良多は、妻のゆかりと息子を連れて実家に帰省する。
良多は現在失業中だが、
両親にはそのことを隠している。
昔からそりの合わない開業医の父は、
相変わらず家長として威厳をふりまき、
亡き兄と良多を比較しようとする。
良多はそんな父に反発する……。
みんなで台所で料理をしながら、
居間で家族揃って食事をしながら、
古いアルバムのページをめくりながら、
墓参りにいく道すがら――、
そうした何気ない日常に交わされる
会話や表情、間合いを通じて、
ギクシャクした家族の関係が、
少しずつ浮き彫りになっていく。
父と子の関係を軸にしながらも、
描かれる人間関係は、
母、父、長女、義兄、次男、妻……と、
家族全員におよぶ。
家庭内群像劇である。
突如、良多夫妻のこんなやり取りが展開されるのも、
この映画のおもしろさだ。
夕食後、寝室にて――
良多   「あれ、Tシャツは?……オレの」
ゆかり  「だって、お母さんの(買ってくれた)パジャマがあるんでしょ?」
良多   「いいよ、別に着なくたって」
 
ゆかり  「着なさいよ。わざわざ息子のために買ったんでしょうから」
良多   「おまえ、なんか怒ってるの?」
ゆかり  「……」
良多   「いつも帰ったときはそうなんだよ。
      世話焼きたいんだろ、オレの」
ゆかり  「そんなことじゃないわよ」
良多   「じゃあ何よ?」
ゆかりはこう答えた――
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     「どうせパジャマ買うんなら、
      私のも一緒に用意してくれたって……」
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ちなみに、このシーンの直前に、
母が良多に風呂に入ることをすすめながら
「あなたのパジャマを買ってある」
と伝えるシーンが挟まれている。
義母とうまくやっているように見えたゆかりが、
突然、ダンナの良多に、義母に対する不満をもらしたのだ。
息子を猫かわいがりする一方で、
お嫁さんをどこか見下しているかのような義母……。
既婚女性であれば、
ゆかりと似たような気持ちを味わったことのある人も
少なくないだろう。
もちろん、義母に悪意があったかどうかは分からない。
単に気が回らなかっただけかもしれないし、
嫁の分はあえて買わなかったのかもしれない。
あるいは、お嫁さんにパジャマを押しつけるのは悪い。
そう思ったのかもしれない。
それは本人のみぞ知るところである。
それにしても、
     「どうせパジャマ買うんなら、
      私のも一緒に用意してくれたって……」
のセリフに共感する
奥様方は多そうだ。
じつにリアルである。
一方、この直後に発せられる良多の発言が、
これまたリアルなので、紹介しよう。
      「考えすぎだよ。
       そこまで気が回らなかっただけだよ。
       だって歯ブラシはあったよ、3本(←息子の分も含めて)」
気を損ねた奥さんの誤解を解こうとする一方で、
母親のこともしっかりとかばう。
もちろん、こんなフォローで
「そう、歯ブラシは3本あったの。じゃあ許すわ」
と機嫌を直す奥さんはいないだろう。
でも、そこに気づかないのが、男というやつだ。
だから、
      「だって歯ブラシはあったよ、3本」
などと言ってしまうのだ。
そんなヘタなフォローをすると、
奥さんの“腹の虫”次第では、
「あなたは、何も分かってない!」とか
「あなたは、どっちの味方なの?」とかいう
言葉が返ってくるであろう。
そして、また男は、
「味方も敵もないだろ!」的なことを言って、
火に油を注ぐのだ。
     「どうせパジャマ買うんなら、
      私のも一緒に用意してくれたって……」
と不満をもらす奥さんへの対処として、
私がオススメするのは――
     「まったくそうだな。
      気が利かなすぎる。
      俺から言っとくよ!」
である。
おそらく奥さんは、
     「えっ? 分かってくれればいいの。
      そこまでしなくていいから
     (お母さんには言わなくていいから)」
となるだろう(ならない?)
奥さんは、義母に対する不満は口にしても、
義母と本気で直接対決しようとは思ってない。
男はそこに気づくべきである。
新しいパジャマ(=義母の気遣い)は手に入らなくとも、
自分のことを理解してくれるダンナの気持ちが、
手に入れば、
奥さんの“腹の虫”も、
少しはおさまるのではないだろうか。
※いつも以上に個人的解釈入ってます。
 反対意見等はメールでお願いします(笑)     
 
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●編集後記             
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本作「歩いても 歩いても」は、
絶妙な間合いと会話と表情から、
家族の関係性をじわじわとあぶり出していく
じつにリアルな映画です。
長セリフや長回しも、
リアルな空気を生み出すのに、
一役買っています。
息子夫婦に、阿部寛と夏川結衣。
人生の黄昏時にある老夫婦に、
原田芳雄と樹木希林。
長女にYOUというキャスティングも絶妙。
監督は「ワンダフルライフ」や「誰も知らない」などで、
高い評価を受けている是枝裕和監督。
現在公開中の「空気人形」も、
深みのあるセンセーショナルな作品です。
「空気人形」批評はコチラ↓
http://yamaguchi-takuro.com/100/115/post_369.html
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■銀幕をさまよう名言集! No.54「歩いても 歩いても」
マガジンID:0000255028
発行者  :山口拓朗
●公式サイト「フリーライター・山口拓朗の音吐朗々NOTE」
http://yamaguchi-takuro.com/
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