映画批評「戦場のアリア」
2006.2.23 映画批評
4月公開の「
監督・脚本:クリスチャン・カリオン 製作:クリストフ・ロシニョン 製作総指揮:イヴ・マチュエル 撮影:ウォルター・ヴァン・デン・エンデ 音楽:フィリップ・ロンビ 出演:ダイアン・クルーガー、ベノン・フユルマン、ギヨーム・カネ、ダニエル・ブリュール、ゲーリー・ルイス、ダニー・ブーン、アレックス・ファーンズほか 上映時間:117分 配給:2005仏・独・英/角川ヘラルド・ピクチャーズ
1914年、第一次世界大戦のさなか、フランス・スコットランド連合軍とドイツ軍が対峙するフランス北部の村デンソー。戦況は泥沼化の様相を呈していたが、クリスマスイブの夜、ドイツ軍は塹壕周辺にクリスマスツリーを飾り、スコットランド軍はバグパイプの音色を響かせる。
そして、ドイツ軍兵士のテノール歌手が歌ったクリスマスキャロルをきっかけに、敵対していた兵士たちは銃を置き、互いに歩み寄り、シャンパンで乾杯するとことに…。
軍の正式記録には残っていないが、欧州に語り継がれる史実。戦場での奇跡を描いた異色作である。
ドイツ軍のテノール歌手の美声に拍手を送ったフランス・スコットランド連合軍。そこには、同じ人間として感じずにはいられない——国にもまさる(!)人間の根源的な大義——があったのではなかろうか。
彼らは片言の外国語であいさつを交わし、家族の写真を見せあい、住所を交換しあい、サッカーの試合に興じる。最前線とは思えぬ温かい交流。まさに奇跡的な光景である。
この映画の最大の見どころは、クリスマス停戦を実現し、交流を深めた敵国同士が再び、兵士として自国の使命を全うできるかどうかである。
一度握手をしてしまった者同士が、再び相手を撃ち殺すことが、果たしてできるのか?
兵士たちは自国の大義と、その矛盾の狭間で葛藤する。そんな彼らの葛藤に気持ちを重ね、“戦争が一体誰のためにやっているものなのか”という真実を見つめることが、1914年、実際に最前線で奇跡を起こした人々に対する現代人のオマージュなのかもしれない。
2006年2月、イタリアのトリノでは冬季オリンピックが行われている。
「オリンピック停戦」という言葉がある。オリンピック開催期間中は紛争当事者に戦争の停止を求めるものである。
しかし、この実効力は完璧ではなく(アテネオリンピック時、実際に署名に応じたのは参加202カ国・地域のうち191)、それどころか、トリノオリンピック期間中、欧州ではイスラム教預言者の風刺画をめぐって、新たな紛争の火種すらできつつある。
「平和の祭典(オリンピック)」をもってしても律することのできない敵対・憎悪という感情を、過酷を極める最前線で取り除いた兵士たちの勇気と崇高な精神に、敬意を表さずにはいられない。
ウソくさいと思ってみれば、それまでの映画。
史実に耳を傾ければ、何か聞こえてくる映画。
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