「スーパークロス」
2006.9.26
9月30日より公開される「スーパークロス」。
監督:スティーブ・ボーヤム 製作総指揮:ジョナサン・ボグナー、J・トッド・ハリス 出演:スティーブ・ハウィー、マイク・ボーゲル、キャメロン・リチャードソン 上映時間:82分 配給:2005米/日活
全米で人気を博す究極のバイクレース「スーパークロス」を舞台にした青春バイクアクションムービー。
2歳違いの兄弟、KCカーライルとトリップは、バイトに精を出しながら「スーパークロス」のワールドチャンピオンになることを夢見ていた。初めて参戦したレースイベントで、ふたりの走りはビッグチーム「アメリカン・ナミ」社の目に留まるが、実際にスカウトを受けたのは兄のKCカーライだけであった。トリップは傷付き、自暴自棄に。一方、兄のKCカーライも思うような走りをさせてもらえず欲求不満がつのっていく……。
本作の見どころは、一にも二にもレースシーン。土煙を巻き上げながら、アクセルをひねり、コブを跳び超え、急旋回をくり返すライダーたちのギリギリ感が、見る者の手に汗を握らせる。
汗とホコリと油と、とどろくエキゾースト音。
勝敗だけではなく、観客を魅了するエンターテインメント性を兼ね備えている点も、このスポーツの魅力だろう。
すべてのレースシーンにリアリティを出すために、2年かけて撮りためた実際の「スーパークロス」の映像をふんだんに使用するほか、撮影でも本物のレーサーがスタントを務める徹底ぶり。CGに頼ることのないウソのない絵作りこそが、この映画の生命線である。
ただ、その迫力のレースシーンのインパクトが強烈すぎて、物語があまりに淡白になりすぎた。
貧しい境遇のなかでひたむきに夢に向かう兄弟の姿、そのふたりに訪れる挫折と亀裂、レースという現実のなかで直面する葛藤(資金力のある者が有利、チームのために走りをセーブしなけれないけない)、ライバルの出現、人生を変える大事故、ふたりを支える恋人の存在……etc。
ドラマを深める要素がこれだけありながら、そのいずれもが、表面をトレースするにとどまっている。しかも、登場人物の心理&感情描写がおしなべて甘く、観客は最後まで(誰に対しても)感情移入できずじまいとなる。
レースシーンを削ることが難しいのなら、全編をもう30分延ばしてでも(本作は82分)、人間ドラマを深く掘り下げるべきではなかったか。そうすることで、レースシーンをより効果的かつ刺激的に見せることもできたはずである。
華々しいフィナーレにもかかわらず、せり上がる感動が乏しいのは、主人公の人間としての魅力や、彼らが直面する“壁”が、ぼんやりとしか見えなかったがゆえ。
あるいは、「スーパークロス」を題材にするのであれば、観客のターゲットをバイク&モータースポーツ好きに特化し、完全なドキュメンタリー映画にしてしまう手もあったのかもしれない。
物語はさておき、バイクを自分のカラダの一部のように操り、ときに空中でウルトラCをキメるライダー。その超人的な美技は、一見の価値アリ、である。
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