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「ファミリー」

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2006.10.31
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12月2日より公開される韓国映画「ファミリー」の試写。
イ・ジョンチョル第一回監督作品。
監督・脚本:イ・ジョンチョル 製作総指揮・キム・スンボム 撮影・チェ・サンムク 美術・カン・ソヨン 出演:スエ、チュ・ヒョン、パク・チビン、パク・ヒスン、オム・テウン ほか 上映時間:96分 配給:2004韓/ソニー
ひとりの孤独には救いがある。ふたりの孤独は深刻だ。そして、家族という共同体が孤独にむしばまれたとき、人は孤独の底にある本当の“辛さ”を知るのかもしれない。
観ながら、そんなことを思った。


3年の刑期を終えて、娘ジョンウン(スエ)は、年老いた父と幼い弟が暮らす実家に戻ってきた。ところが、父はジョンウンに厳しくあたる。「なぜ帰った? いつ出て行くんだ?」。そんな父を疎ましく思うジョンウン。
それでも、親子の絆というのは不思議なものである。笑顔のかけらすらない一触即発の生活のなかで、父は密かにジョンウンの更正の手助けをし、ジョンウンは病に侵された父の身を案じ始める。果たしてふたりは、荒廃寸前の親子関係を修復できるのだろうか…。
本作「ファミリー」の前半では、冒頭に記したような、孤独とその底にある“辛さ”が克明に描かれている。天涯孤独にも勝る孤独。もしそんなものがあるとしたら、親、あるいは子から見放されることなのかもしれない。
ふたりを断絶に導くものの正体は何なのだろうか?
おそらくそれは「相手への憎しみ」ばかりではなく、自分自身が抱える“不器用さ”と“頑固さ”もひとつのファクターなのだろう。つまり、「分かりあえない」というのは正しい言い方ではなく、「分かりあおうとしない」ということ。
どんな親子間にも多かれ少なかれ存在する乖離を、本作は究極的なケースで示し、なおかつ、その根源的な原因を、抑制を利かせたシリアスな演出でジリジリとあぶり出している。
ふたりの“不器用さ”と“頑固さ”が徐々に溶解していくくだりに別段大きなドラマがあるわけではないが、彼らの悲喜こもごもな表情を見ているだけで、どうしてか熱いものが胸にこみ上げてくる。それはきっと、孤独の底から抜け出そうとするふたりの成長と、その成長の種とも言うべき、目に見えぬ親子の絆を感じ取るからなのだろう。
しかもこの作品は、その理屈では語り尽くせない親子の愛情と絆を、驚くべきクライマックスを用意することで、より普遍的なステージへと昇華させることに成功している。それは到底ハッピーエンドとは言いがたい内容でありながら、親子の愛情、絆というメンタルレベルでは最上級のハッピーエンド——という、なんとも皮肉めいたパラドックスなのだが。
前半で孤独の極地を描いた気鋭の初メガホン監督は、終盤で、その対局にある絆の極地を描いてみせている。蜂のひと刺しのごとく、鮮やかかつショッキングに。その見事な幕切れに、驚き、ア然とした。
この作品は、決して「ファミリー(あるいは親子)」という共同体の模範解答を用意しているわけではない。しかしながら、観客はそのしたたかかつ重厚な物語を通じて、改めて親子の絆の深さを思い知ることになるだろう。
ジョンウンを演じた映画初挑戦のスエ、父を演じたチュ・ヒョンの演技が素晴らしい。また、脇を固めた凶暴なギャング役のパク・スヒンの気迫みなぎる芝居や、天真爛漫な弟を演じたパク・チビンの好演も光っている。
また、ジョンウンが刑務所送りとなるまでの一連の回顧録から、出所後にギャング一味に追いつめられていく窮地や、断絶する親子の一方で育まれるジョンウンと弟の心あたたまる兄弟愛、父が隠していた娘との間に生じたかつてのエピソードなど、随所にちりばめられた物語も、丹念に、リアルに、愛情深く描かれている。
大規模な資金を投じた映画ではない。基本的には地味で、暗く、面白みのない物語。でも、ここまで親子の悲哀や愛憎や絆をしたたかに描いている作品は稀ではないだろうか。
感動という言葉でまとめてしまうには恐れ多いほど、切実な痛みと辛さ、そして希望を与えてくれる「ファミリー」。
ドラマとして奇麗に輝きを放つオススメの1本である。

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