山口拓朗公式サイト

「幸せのちから」

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2007.1.7
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1月27日より公開される「幸せのちから」。
監督はイタリアのガブリエル・ムッチーノ。出演はウィル・スミス、タンディ・ニュートン、ジェイデン・スミスほか。
医療機器のセールスマン・クリスは、5歳のクリストファーのよき父親だが、セールスの業績はさっぱり。朝から晩まで働き通しで家計を支えてきた妻のリンダは、ついに家を出ていく。そんなある日、クリスは、一流証券会社の株式仲買人養成講座に申し込むが、研修期間中は無給とのこと……。しかも、追い討ちをかけるかのように、家賃滞納でアパートを追い出され、クリストファーとふたりでホームレス生活を余儀なくされる……。


ホームレスから億万長者へとのぼりつめた実在の人物をモデルにした物語。
成功。アメリカンドリーム。億万長者。
が、
そんな言葉から思い浮かぶ痛快なサクセスストーリーを予想すると、見ごとに裏切られるだろう。
全体を10として、凡百のサクセスストーリーが「どん底4→助走3→飛躍3」程度の割合で進むとするなら、本作は「どん底9、飛躍1」程度の割合。そういう意味でも、この映画をありきたりのサクセスストーリーと同列に語ることはできない。
もちろん「どん底9」のなかには「助走」も含まれているが、それは、のちの未来から振り返れば、それが助走であったと気づく類のもの。つまり、主人公の主観としては、未来に対する確証どころか、わずかな光さえ見えない状態が、ひたすら続くのである。
この映画のテーマをひとつ挙げるとしたら、“ひたむきさ”に尽きる。生きるひたむきさ。息子へのひたむきな愛——。
セールスは不調、研修中は無給、妻の三行半、家賃滞納、ホームレス生活……そうした状況下で人間は、ふつう、イライラを募らせたり、厭世的になったり、自暴自棄になったりするものだが、クリスは自分の人生を必要以上に悲観せず、目標に向かって今できることをコツコツとやり続けた。
そして特筆すべきは、
どんなに苦しい生活状況においても、息子のクリストファーに対する愛情の泉を枯らさなかったことだ。クリスは常にクリストファーに明るく接し、励まし続けた。
それは、「貧しい生活状況」と「親の子に対する愛情」が必ず相関するものではないということを示すにとどまらず、物質的に満ち足りた親子が育みやすい“希薄な絆”に対するアンチテーゼにもなっている。
アメリカンドリームを実現した実話をベースにした作品らしく、社会的な成功を収めるためのヒントらしきものも、随所に隠されている。
月の光をたよりに徹夜で勉強をするひたむきさ、証券会社の人材課長が乗ろうとしていたタクシーに強引に乗り込む大胆さ、一度肩透かしを食らったアポを逆手にとり、再度、大物の顧客に接近をはかる行動力(ピンチをチャンスに転換する発想)。そして、明るく誠実で裏表のない持ち前の人柄。
小さな勇気と行動力と人柄の積み重ねが、のちの億万長者を生み出している事実は、多くのひとの心を勇気づけるだろう。
地道なサクセスストーリーと、ほのぼのと温かい親子の絆。この両者を控えめな演出で描きつづったのが本作「幸せのちから」である。
クリスを演じるウィル・スミスと、クリストファーを演じるジェイデン・スミス。この実の親子を起用したキャスティングも功を奏している。また、クリスの妻を演じるタンディ・ニュートンも文句なしのはまり役を演じている。
最高の親子関係を作り上げ、仕事でもリベンジを果たす一方で、妻との間にできた溝を埋めることができなかったクリス。そこにまた、一筋縄ではいかない人間の現実を見た気がした。

お気に入り点数:75点/100点満点中

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