山口拓朗公式サイト

「ユメ十夜」

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2007.1.26
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1月27日より公開される映画「ユメ十夜」の試写。
1908年に夏目漱石が発表した短編小説『夢十夜』。それから100年経った現在、その短編に収められている10の物語(夢)を、日本が誇る監督&クリエーター10人が映画化。異色のオムニバス映画である。
監督:実相寺昭雄、市川崑、清水崇、清水厚、豊島圭介、松尾スズキ、天野喜孝・河原真明、山下敦弘、西川美和、山口雄大 出演:小泉今日子、うじきつよし、堀部圭亮、山本耕史、市川実日子、阿部サダヲ、藤岡弘、緒川たまき、松山ケンイチほか 上映時間:110分 配給:2006日/日活


日本が誇る文豪の映像化。しかも10人の監督が一堂に会す作品とあれば、百戦錬磨の監督陣も、さぞかしプレッシャーが大きかっただろうと思いきや、作品を観終えての感想は、まったく逆なものであった。つまり、どの作品にもプレッシャーの形跡は見られず、むしろ、のびのびした自由さがうかがわれた。
なるほど。
もしも原作が現存する大御所作家の代表作などであろうものなら、さぞかし重圧(気づかい?)も大きかったのだろうが、今回は亡き夏目漱石の作品(それも異色作)ということで、いい意味で、胸を借りやすかったのかもしれない。
それは、故人である夏目漱石自身にあれこれ評価される心配がないということだけでなく、例えはよくないが——“腐っても鯛”的なものとでも言おうか。つまり、どう、何を、撮ろうと、原作者はあの夏目漱石。ケチをつけるには、あまりに相手が偉大すぎるというワケだ。“大船に乗った”とまでは言わなくとも、メガホンをとる人たちにとっては、そうしたことも精神的な後ろ楯になっていたのではないだろうか。
しかも、小説『夢十夜』は、摩訶不思議、奇想天外、幻想的、ミステリアスな夢世界を描いたものであり、漱石みずから「この作品が理解されるには100年もの永い年月がかかるだろう」と語ったというシロモノ。ダレもが知る漱石の純文学作品に挑むよりは、数倍やりやすく、なおかつ手腕の見せ甲斐もあったはずである。
漱石の胸を借りた10の作品は、“画一的な雰囲気の作品が並びはしないか?”という予想に反して、バラエティに富んだ作家性の競演となった。言うなれば、夏目漱石という大海原で、現代の映像作家たちが自由に泳がせてもらっているかのようなイメージ。
面白かったのは、1915年生まれの市川崑監督から1976年生まれの山下敦弘監督まで(年齢差60歳以上!)、さまざまな世代の監督が参加している点で、作品の解釈から、表現方法、デフォルメ具合まで、作品の毛色は十人十色(若い世代の監督のほうが大胆に表現していたと思うけど)。100年後のクリエーターに自由な解釈と表現で映画を撮らせることに成功した漱石のニンマリ顔が見えそうな内容に仕上がっている。
不条理で非現実的で幻想的な10の夢を描いた小説『夢十夜』は、夏目漱石が抱えていたと思われる不安や恐怖、願望、欲求などを描いたものにつき、映画化された物語も基本的には“突飛”である。時系列のバラつきはもちろん、時間はねじれ、空間はゆがみ、記憶は錯綜し、常識はくつがえされ……つまり夢である。
原作は未見だが、あるいは、事前に原作を読み、頭の中で映画監督よろしくビジュアルをイメージしてから観ると、二倍も三倍も楽しめるのかもしれない。
100年前に夏目漱石が投げたボールを、現代作家がキャッチし、そこに自由な解釈や遊び心を加えた本作「ユメ十夜」は、夏目漱石が現代に与えた100年越しのメッセージであり、過去と現在をつなぐ壮大なコラボ作品ともいえる。
起承転結のあるリアルな物語が好きな方はオススメできないが(筋なんてあってないようなものなので…)、“フシギ物語”好きの方はどうぞご賞味あれ。理屈ではなく、感性と感覚を楽しみたい1本である。
個人的なBEST3は、松尾スズキ監督の第六夜、山口雄大監督の第十夜、豊島圭介監督の第五夜。ユーモアとスピード、デフォルメ具合に突出した点が見られた三作品を選びたい。

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