「リトル・ミス・サンシャイン」
2007.2.9
ロードショー中の映画「
第19回東京国際映画祭で最優秀監督賞、最優秀主演女優賞、観客賞など最多3部門を受賞した作品。
監督:ジョナサン・デイトン&バレリー・ファリス夫妻 脚本:マイケル・アーント 出演はグレッグ・キニア、トニ・コレット、スティーヴ・カレル、アラン・アーキン、ポール・ダノ、アビゲイル・ブレスリンほか 上映時間:100分 PG-12 配給:2006米/FOX
ダンスとおじいちゃんが大好きな小太りのメガネっ子、オリーヴの夢は美少女コンテストで優勝すること。ひょんなことから地方予選でくり上げ優勝した彼女は、独自の成功論の確立に余念のない父リチャードや、物言わぬ兄ドウェーン、数日前に自殺未遂を起こしたばかりのゲイで伯父のフランクらとオンボロのバンに乗り込み、自宅があるアリゾナから、決勝大会が行われるカリフォルニアの会場を目指す。
ひとクセもふたクセもある家族のメンバー6人が、ひとつの旅を通じて成長していく、ユーモアたっぷりのロードムービー。低予算で作られた超B級モードにしてちょっぴり心温まる、愛すべきシリアス&コメディ。
まとまりゼロ家族の再生記録という、いかにもおあつらえ向きな話かと思いきや、この作品に限っては、家族の再生を最終目標に置いていない。
じゃあどこに最終目的を置いているかといえば——、どこにも置いていない。
ひとクセもふたクセもある6人を逃げ場のない1台のバンに閉じ込めて、単に、そこで起こる化学反応を楽しもう! という何とも無責任極まりない映画である。
カリフォルニアまでの道すがら、家族にはさまざまなトラブルが待ち受けている。オンボロのバンがどんどん壊れていくという物理的なものから、お父さんの書籍出版の契約が○○になったり、パイロットを目指していた長男が実は○○だったり、ジャンキーなおじいちゃんが突如○○したり……という精神的なものまで。
ふだんはお互いに干渉しあわない(というか、みんな身勝手すぎ)彼らも、同じクルマに乗り合わせたとあれば、いつものように傍観やダンマリをきめ込むわけにはいかない。
さんざんわがままを言ったり、殴り合いになりそうな口げんかをしたり、相手の傷口に塩を塗り込んだりしつつも、ときに(いやいやながらも)助けの手を差し伸べ、ときに(やれやれと思いながら)励ましの言葉を投げかけるようになる。
そうした気づかいは、クルマがトラブったときや、ほかのダレかが挫折のどん底に沈んだとき、この機会を逸したら決勝大会に間に合わない!という絶体絶命の場面などでの、家族みんなの行動によく表れている。どんなに個性がばらばらでも、ひとつの目標に向かうことにより、人間は一枚岩らしき(あくまでも「らしき」)ものになれるということを、この物語は教えてくれる。
クライマックスで、大笑いしながらも、心のどこかで感動してしまうのは、この旅を通じて、家族のメンバー一人ひとりの成長(家族を守る意識が芽生えたこと)を目の当たりにするからである。
恥も外聞も切り捨てたパワーあふれるクライマックス——多くの人は、そこに、単なるおバカで能天気なコメディの結末としてではなく、イビツながらも現実感の伴った、ひとつの“家族の絆”見つけることだろう。
もちろん、冒頭で書いたように、この物語は家族の再生をつづったものでも、家族の正しいあり方を啓蒙しようとしたものではなく、あくまでも家族6人の旅を通じて起こる化学反応を、ときに滑稽に、ときにシニカルに、ときにブラックユーモアを織り交ぜながら描いているにすぎない。
しかし、この化学反応を大笑いして楽しんだ人たちは、まんまと化学反応のあとに残った残留物(感動)まで見せられてしまうのである。なんたる映画だ。
ここまで滑稽な家族の実像を、いやらしいほどヒューマスティックな視点で描いた夫婦監督のセンスと、言葉少なながら、それぞれが抱えるイライラや悩みを、ギリギリのシリアスモードで表現したキャストの力も大きかった。
ちなみに、美少女コンテストの決勝大会の規模はもう少し大きくてもよかった気もするが……、そんなチープ&プアーさに対しても、おそらく「予算の関係ですが、ナニか?」と堂々と言い切るであろう、潔いB級精神を含めて、この作品はやっぱりイカしてる、と言うしかない。
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