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「監督・ばんざい!」

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2007.5.25
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6月2日より公開される映画「監督・ばんざい!」の試写。
北野武監督の第13作。監督・脚本・編集:北野武 音楽・池辺晋一郎 出演:ビートたけし、江守徹、岸本加世子、鈴木杏、吉行和子、宝田明、藤田弓子、内田有紀、木村佳乃、松坂慶子、大杉漣、寺島進、六平直政、渡辺哲、井手らっきょ、モロ師岡、菅田俊、石橋保、蝶野正洋、天山広吉ほか ナレーター:伊武雅刀 上映時間:104分 配給:2007日/東京テアトル=オフィス北野
北野武。暴力を基調に表現される“北野ブルー”と呼ばれる独特の映像感、孤独感、青春像は、たしかに氏の作品に共通するベースなのかもしれないが、「映画くらい好きに撮らせてくれよ!」という本人の言葉通り、北野武自身は取り立てて“北野ブルー”などという崇高なモノが撮りたいわけではなく、簡単に言ってしまえば“好き勝手”に映画を撮りたいだけなのだろう(そして、撮り続けてきただけなのだろう)。


自己陶酔の極地だと(私は)思う「HANA-BI」(98)でベネチア国際映画祭・金獅子賞を受賞し、世界に認められたことは幸いであったが、そんな評価やステータスなど、本人にとっては——ひとときの喜びであったとしても——結果的には、引きちぎらずにはいられない足枷にすぎなかったのだろう。
それを示すかのように、北野映画は、その後もダッチロールをくり返す。
「菊次郎の夏」(99)でほのぼのと懐かしいぬくもりを描いたかと思えば、「Dolls」(02)では映像的かつ心理的な美的感覚を研ぎ澄ませ、さらに「座頭市」(03)では時代にフィットしたエンターテインメントを撮る。そして、再び「座頭市」のような面白さを味わいにきた客を、「TAKASHIS`」(05)で確信犯的に困惑へと陥れる。
天下をとった北野武にしてみれば、引きちぎりたい足枷はひとつやふたつでないことがよくわかる。簡単に評価などされたくないのだろう。
個人的には北野武が紡ぐヒロイックかつナルシシズムあふれる物語は好みではないが、“型にはまらない”“期待に裏切る”“映画の可能性を探る”という挑戦をし続ける監督像は評価できる。
そして本作もまた前述した3拍子を兼ね備えた北野流の真骨頂。言葉にすると、ありゃまあ、そうきましたかー、というヤツだ(笑)。だが、これまでの北野作品と比べると、漫才師やお笑い人としてのビートたけしを知る日本人には、比較的受け入れやすい作品ではある(欧州の北野ファンはたまげるだろうな…)。
あらすじは、こうだ。おバカな映画監督キタノ・タケシ(ビートたけし)は、次回作について悩んでいた。十八番はギャング映画だが、彼は「暴力映画は二度と撮らない!」と宣言してしまったのだ。とにかくヒット作を世に送り出そうと、さまざまなタイプの作品を撮ってはみるものの、どれもこれも、とん挫の連続。お先真っ暗ななか、監督は1本の映画の製作にとりかかるが……。
おそらく、これまでに北野武が映画監督として見せてこなかった“ビートたけし”な一面をモロにぶつけたのが本作「監督・ばんざい!」なのだろう。したがって、従来の作品のように、“北野ブルー”だとか、人間の内面だとか、美的センスだとか、そんなものたちを検証する必要はほとんどなく、「ひょうきん族」の下品な笑いや、「元気が出るテレビ!!」のおバカな笑いや、「お笑いウルトラクイズ」のスペシャルおバカなお笑いの線上にある作品(?)としてとらえるのが無難ではないだろうか。
お笑いを評価することほど難しいことはないが、たけしの笑いの基本は、おじぎしてマイクにひたいをぶつけるような、くだらなさ、に尽きる。そんなくだらなさをバラエティ番組でやるのならまだしも、映画でやってのけるあたりは、さすがに北野武とも思えるし、反面、映画という固定化した作品にしてみると、たけしの笑いの醍醐味が希釈されてしまったようにも感じる。
ただ、どう考えても江守徹は笑えたし、蝶野と天山のラーメン屋も笑えたし、井手らっきょはくどすぎた。まあ、そのくらいの感想が妥当な作品である(笑)。それは、「ひょうきん族」を深く考えるのがナンセンスであり、あるいは、カンヌ映画祭の赤じゅうたんをちょんまげ姿で歩く北野武のことを、深く考えるのがナンセンスなのと同じである……って、違いますでしょうか、北野先生?
チラシに打たれている“ウルトラ・バラエティ・ムービー”というジャンルは、この映画を表す言葉として間違ってはいないと思うが、その響きから予想されるほど「監督・ばんざい!」が爆発的に面白いかといえば、正直そうでもない。
ただし、北野作品のワンピースとしてみれば十分に合点がいくし、映画をテーマにした作品につき、そのディテールに監督がこめてるやもしれないオマージュやテーゼを読み取るのも、それはそれだ。結局は、北野武という存在がすでにひとつのアイコンであり、世界中の映画ファンが、その一挙手一投足に夢中になっているということなのだろう。

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