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「怪談」

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2007.7.23
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8月4日より公開される映画「怪談」の試写。
監督:中田秀夫(「リング」) 原作:三遊亭円朝 脚本:奥寺佐渡子 撮影:林淳一郎 美術:種田陽平 衣裳:黒澤和子 出演:尾上菊之助、黒木瞳、井上真央、麻生久美子、木村多江、瀬戸朝香ほか 上映時間:119分 配給:2007日/松竹=ザナドゥー
美しい顔だちの新吉は、三味線の師匠・豊志賀(とよしが)と深川の道で出会う。やがてふたりは恋に落ちるが、実はその出会いは、偶然ではなく、親の代から続く不思議な因縁で結ばれていた。あるとき、新吉とのいさかいの末に、豊志賀は顔に傷を負う。精神を病んだ豊志賀は、「このあと女房を持てば必ずやとり殺す」と書き残して死んでいく。新吉は江戸を抜け出すが、以来、彼に思いを寄せる女たちは、次々と不幸な運命に巻き込まれていく……。


映画「リング」の中田監督が、人間の「因縁」と「怨念」をテーマとして取り上げた。ところどころでドキっとさせられるシーンが盛り込まれてはいるものの、この作品は基本的に、そこだけを楽しませようという意図で作られてはいない。
“袖ふれあうも他生の縁”という言葉があるが、私たちの人生というのは、先祖の「因縁」の影響を多分に受けていて、そこに起因する愛憎劇もあるのかもしれない……。そんなことを漠然と思い描かせる映画である。
とはいえ、「怨念をもつ幽霊」に人生を狂わされる新吉——そのワンテーマに引っ張られるこの映画は少々退屈だ。怖くないですか? と訊かれれば、そうですね、と答えるほかないが、要するに死後も生き続ける粘着質な「怨念」のお話。そこにホラーとしての新しい切り口はなく、ましてや、このテーマを時代劇で見せられると、完全におとぎ話の世界。おもしろいですか? と訊かれると、うーむ、とうなるよりほかない。
唯一興味深かかったのは、ラストシーンで新吉と豊志賀にひとつの「回帰」を与える点である。このシーンはひとつの“絵”として際立っており、そこに描かれている意味の解釈を見る人にうながす。粘着質な「怨念」に辟易する人、究極的な愛の姿を見つける人、あるいは、その対局にある究極の呪縛刑と見る人……等、その感想は十人十色。この作品はラストシーンの深遠さに救われているといっても過言ではない。
一方、ビジュアル面ではいくつかの見どころがある。劇中、新吉の魅力に惹かれる多くの女性が登場するが、彼女たちの生い立ちから人間性までを如実に表した衣装が素晴らしい。また、ライティングを含めた空間演出と音響のマッチングにも、「リング」を撮った気鋭監督らしいセンスが垣間見れられた。惜しむべきは、それらの演出効果が生かされる設定と脚本が用意されていなかったことだろう。
蛇足として付け加えるならば、美貌というには、あまりに表情(とくに目!)に覇気がない新吉役の尾上菊之助に魅力が感じられない。「因縁」や「怨念」に翻弄される主人公が、(たとえイケメンとはいえ)覇気も取り柄もない単なる優柔不断男では、シンパシーの感じようがないではないか……。
さらに言えば、新吉と豊志賀のそもそもの出会いが、親の代の「因縁(しかも借金沙汰の殺し合い」に由来しているという設定の効果も、恐ろしく弱いように思う。
本作「怪談」は、陳腐と切り捨てるには少々惜しい気もするが、手放しに楽しめる娯楽作品ではないし、ホラー色が弱めにつき、清涼効果も今一つ。料理の仕方というよりは、素材選びに難あり、か。

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