「デス・プルーフ in グラインドハウス」
2007.8.31
60~70年代に数多く存在した「インディーズ系の低予算映画=グラインドハウス映画」を現代によみがえらせようと、クエンティン・タランティーノとロバート・ロドリゲスがそれぞれにメガホンをとったタッグ企画「
本レビューは「デス・プルーフ in グラインドハウス」のほう。
監督・製作・脚本・撮影:クエンティン・タランティーノ 製作:ロバート・ロドリゲス 出演:カート・ラッセル、ゾーイ・ベル、ロザリオ・ドーソン、ヴァネッサ・フェルリト、シドニー・タミーア・ポワチエほか 上映時間:113分 配給:2007米/ブロードメディア・スタジオ
あるテキサスの夕暮れ、学生時代の仲間3人で飲み明かす若い女3人組に不気味の男の影が近付いてくる。男の名前はスタントン・マイク。ドクロマークのついた無気味なシボレーを乗り回す中年男だ。彼はこの夜、とんでもない事件(事故?)を起こす……。14ヶ月後、ある休日に70年型ダッチ・チャレンジャーに試乗しようとした女3人組に、再びスタントン・マイクの影が近寄り……とんでもないカーチェイスが始まった! さて軍配はいかに!
タランティーノの最新作は、これまでに映画という映画を見まくってきた彼が、それまでに見てきたすべての映画に対するリスペクトを込めて製作した大傑作! 映画界きっての鬼才が、2時間のフィルムに焼きつけた映画への熱い思いが、見る者を得も言われぬ興奮へと導く!
スリラーからコメディ、エロ、スラッシャー、一発逆転のリベンジアクションまで、あらゆる要素を盛り込みつつ構築されたストーリーもさることながら、巧みなカメラワーク、ベタさと斬新さを使い分けた映像(タランティーノ自身が撮影監督を担当)、遊び心のあるガーリーな会話、キャスティングの妙、映像との相乗効果を狙ったBGM、映像処理を最低限に押さえたスタント、ユーモアのある編集センス……どれもが心踊るほど映画愛に満ちている。
静謐な描写から圧倒的なインパクトまでをまんべんなくちりばめつつつ、細部にまで愛情をたっぷりと浸潤させた職人芸の極み。古き良き映画たちへのオマージュを根底に横たえながらも、出来上がったものはタランティーノのオリジナル以外の何ものでもなく、また、映画的脳内ワールドを炸裂させた“よがり”まくりの作品でありながらも、万人がしっかり楽しめるエンターテイントとして仕上げられているところが、タランティーノの天才たるゆえん。テイストはキッチュでベタな低予算映画そのものながら、空気感の心地よさはピカイチで、すべてがデジタル化され、莫大な資金を投入して作られる大作映画とは一線を画す(アナログ的な)スリルと喜びと興奮と笑いを届けてくれる。
強いてあげれば、前半にやや冗長さがうかがえるが、それもクルマが走り出す前の入念なアイドリングと考えればOK。その後、一気にアクセルが踏まれたときに振り落とされないよにご注意のほど。
すべてが見どころであり、すべてが魅力につき、どこがどうという具体的なレビューは避けるが、映画ファンなら笑みを抑えずには見られないだろうし、映画ファンでなくともスカっとした気分で劇場をあとにできるだろう。二度、三度と見返しても、おそらくはそのつど新たな魅力が発見できるであろう本作は、タランティーノの脳を解読するうえでも、格好の題材になるハズだ(笑)。
「パルプ・フィクション」が90年代の代表作なら、本作「デス・プルーフ in グラインドハウス」は00年代の代表作か? 古くも新しく、ベタながらもシャープで、陳腐ながらも最高にCOOL! アンサンブル? ミクスチャー? なんでもいいけど、タランティーノにお礼を言いたい。ナイスな映画をありがとう!
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