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映画批評「河童のクゥと夏休み」

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2007.9.5 映画批評
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公開中のアニメ映画「河童のクゥと夏休み」を観賞。
監督・脚本・製作:原恵一 原作:木暮正夫 音楽:若草恵 主題歌:大山百合香 美術:中村隆 声優:冨澤風斗、横川貴大、植松夏希、田中直樹、西田尚美、なぎら健壱、ゴリほか 上映時間:138分 配給:2007日本/松竹
夏休み前のある日、康一は川べりで大きな石を拾った。家に戻ってその石を洗ってみたところ、石のなかから河童の子供が! 「クゥ」と名付けたその河童のことを、康一と康一の家族は秘密にするつもりだったが、ひょんなことから表ざたになってしまう……。


康一とクゥの交流を描いたほのぼの感動ファンタジー……であることに間違いはないが、この作品はなかなか鋭い社会批評映画でもある。というのも、康一とクゥの交流を単純な美談でまとめるのではなく、ところどころに、社会や家族、友達にまつわるギスギスとした軋轢を浮かび上がらせているからだ。
「クゥを嫌う康一の妹」「康一に対する同級生からのいじめ」「マスコミの過剰かつ無節操な取材攻勢」「そんなニュースに踊らされる世間の人々」……etc。クゥの唯一の理解者であるはずの康一ですら同級生の女の子に「どブス!」と罵声をあびせもすれば、おびえるクゥをテレビに登場させて悦に入ることもある。主人公といえど、決してデキタ人間としては描かれていない。
ヒリヒリとした現実に目を向け、社会を美化することなく真摯に見つめようという姿勢がうかがえる。しかも、人間の排他性(弱者や他の生き物に対する)はもとより、やじ馬根性、能天気な日和見、凶暴なメディアスクラム……などの痛々しい現実に、簡単に救いの手を差し伸べることもない。問題は問題として残し続ける。そこには製作者のかたくなな意志がうかがえる。
そうした暗部を照らしながらも、クゥとの交流を通じて康一や家族が少しずつ成長していく様子をあたたかい目でつづっていく。なかでも、康一とクゥが遠野に河童を探しに出かけるくだりは、ひとりの少年の成長期としても、クゥの初体験記としても、ロードムービーとしてもしっかりと機能しているうえ、夏の空気感もたっぷり感じさせてくれる。
また、クゥのキャラクター設定が絶妙だ。初めて会った人に「お初にお目にかかります!」とペコリと頭を下げる姿は、礼節を手放して久しい現代人にはまぶしいくらいだし、情緒豊かで好奇心旺盛な子供らしさも好感度「大」。喜々として康一と相撲に興ずる姿、自転車から流れる風景に目を丸くする姿、頭のお皿にビールを注がれて酔っぱらう姿、亡き父親の腕(すでにミイラ化)を必死に守ろうとする姿……、そうした一挙手一投足を愛さずにはいられない。
クゥと康一が迎えるラストシーンも悪くない。一緒にいたくても一緒にはいられない非情な現実。だけど未来が暗いわけではない——そんなラスト。(人間社会で)さんざん不快な思いをしたにもかかわらず、「康一、おめーには世話になったな」とお礼を言うクゥのことを、涙なくしては見られない。
「ウソをつくのは人間だけだ」——そんなクゥから教わることは少なくない。愛情、優しさ、忍耐力、勇気、それに寛容さ。と同時に、その裏側に透けて見える人間のマイナス面もイヤというほど見せられる。これだけ多くの要素を詰め込んでおきながら、散漫になりすぎることも、辛気くさくなりすぎることもなく、全編を吹き抜ける風だけは常に夏色。そこがまたいい。
東京タワーで亡き父を思うクゥがせつない。そしてまた、劇中で犠牲死を遂げた康一の愛犬「おっさん」も、人間と人間社会を見透かした存在として見逃せない。
ぜひとも親子で一緒に見てもらいたい映画だが、大人ひとりでも十分観賞に耐え得る良質の作品だ。

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