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「キングダム 見えざる敵」

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2007.10.25
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公開中の「キングダム 見えざる敵」を観賞。
監督:ピーター・バーグ 製作:マイケル・マンほか 音楽:ダニー・エルフマン 出演:ジェイミー・フォックス、クリス・クーパー、ジェニファー・ガーナー、ジェーソン・ベイトマンほか 上映時間:110分・PG-12 配給:2007米/UIP
中東情勢にはまったく疎いが、アメリカとサウジアラビア(以下サウジ)の石油を巡っての利害関係や、アメリカとサウジ出身の大富豪オサマ・ビン・ラディンを首謀者とするイスラム原理主義の国際テロ組織「アルカイーダ」の対立軸など、両国の関係が単純な同盟国でないことは理解している。
物語はそんな複雑な両国関係にまつわる大規模なテロ事件から始まる。


ある日、サウジの外国人居住区で自爆テロが発生し、多数のアメリカ人が死傷した。FBI捜査官のフルーリー(ジェイミー・フォックス)は、アルカーイダの幹部アブ・ハムザを首謀者とみて、仲間のFBI捜査官数名と一緒に半ば強引に現地入り。FBIにとって決して安全とはいえない場所での捜査をスタートさせるが……。
社会派をにわせる映画である。と同時に、アクションとスリルを織り交ぜながら、ポリスものの娯楽映画としても高い完成度を誇っている。そんなオススメの1本が、本作「キングダム 見えざる敵」である。
事件勃発からラストまで息つく間もなく物語は展開していく。手持ちのカメラに、アップの多投、たたみかけるようなカット割り、不安をあおるBGM……。常にゆれ動く画面が、スリリングなドキュメンタリー風の空気感を演出する。
画面の至るところから、サウジの治安の悪さが伝わってくる。加えて、イスラム文化圏ならではの宗教観や規律、テロが恒常化している国特有の緊張感やネガティブな思想が、折り重なるように、物語の背景にのしかかる。分かりやすいポリスストーリーを軸に据えながらも、要所要所にサウジが抱えるさまざまな問題を、さり気なく織り交ぜる手腕は、なかなか鮮やかである。
また、素人捜査もはなはだしいサウジ警察が突きつけてくるくだらない要求をやり過ごしながら、FBIの辣腕刑事たちが捜査を推し進めていく姿は魅力的である。その捜査の推進力は、そのまま物語の推進力にも変換され、大きな証拠をあげるたびに、FBIとサウジ警察のあいだに屹立していた氷壁が溶解していく。
ただ、いくら犯人を追いつめようとも心が晴れないのは、犯人(テロ集団)が単なる私利私欲をむさぼる犯罪者集団ではなく、常に“正義”の旗の下に戦う聖戦を信じているからであろう。無差別テロは、アメリカ側から見れば明らかに非人道的な大量殺人だが、では、アメリカが某国でくり広げている戦争はなんなのか? という思いがよぎる。
そうした矛盾を見透かすように、本作の頭のキレる監督は、物語のラストに、あるふたつの“耳打ち”の言葉を確信犯的にオーバーラップさせる。そして、本質を突いたそのセリフを客の耳のなかに置き去りにしたまま、物語はスパっと、切れる。巧みである。
この作品を異国で起きている不幸な出来事としてとらえることは簡単だが、劇中にハっとさせられるシーンがある。ほんの一瞬だが、不意に「日本」という言葉が出てくるのである。そのあとに続く言葉は、たしか「イラクに派兵している同盟国……」というものだったと思う。この何気ないシーンで、何気なく挟まれた言葉についてどう考えるかは、耳の中に置き去りにされた“耳打ち”の意味を考えるのと同じくらい大きな意味をもつ。
この映画に描かれていることは、果たして異国でくり広げられている夢物語なのだろうか? と考えずにはいられない。もっと端的に言えば、アルカイーダのようなテロ組織に狙われている国にはどのような国があるのか? あるいは、なぜそれらの国が狙われているのか? ということである。ド派手な銃撃戦で脳内物質を出させたかと思うと、一方では、澱のように沈殿する社会の現実を突きつけてくる。その自在な采配ぶりにも思わず拍手を送りたくなる。
本作「キングダム 見えざる敵」は、過激なテロシーンやドンパチが苦手な方にはオススメできないが、社会派作品を好む方から、テンポのいいポリスアクションが好きな方まで、幅広い層が楽しみ、味わうことができるオススメ作品である。

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