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「クライマーズ・ハイ」

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2008.7.11
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公開中の「クライマーズ・ハイ」を鑑賞。
監督・脚本:原田眞人 原作:横山秀夫 脚本:加藤正人、成島出 出演:堤真一、堺雅人、尾野真千子、高嶋政宏、山崎努、遠藤憲一、マギー、田口トモロヲ、野波麻帆、西田尚美ほか 上映時間:145分 配給:2008東映=ギャガ
1985年8月12日、群馬県御巣鷹山にジャンボ旅客機が墜落するという未曾有の事故が発生。地元の新聞社「北関東新聞」のデスクとして、この事故に関する取材・記事の全権を握ることになった悠木だったが、そんな彼のもとに販売部員で親友の安西が、クモ膜下出血で病院に搬送されたとの知らせが飛び込む……。


自分がその日1日何をしていたか、その日付まで明確に覚えている日は数少ないが、その数少ない1日が1985年8月12日だ。私は中学1年生で、所属していた野球部が全国大会に進出したため、横浜スタジアムに出向いていた。汗だくになってスタンドから先輩たちを応援し、クタクタになって帰宅したそのとき、御巣鷹山の事故の一報がニュースで流れた。その瞬間、私の記憶に1985年8月12日が記憶された。あの日の暑さはハンパではなかったと記憶する——。
そんな、おそらく多くの人にとって忘れがたい大事故を背景に、事故の取材および記事作りに奔走する地元記者の一挙手一投足を描いたのが、横山秀夫の原作を映画化した本作「クライマーズ・ハイ」だ。事故そのものを深く掘り下げた作品ではない。物語の目玉は、あくまでも地元記者たちの奮闘ぶりだ。
主人公の悠木は、この事故の全権を握るデスクを任されるが、そのことをよく思わない上司が、悠木の足を引っ張ろうとしたことから、編集室に一触即発の空気が充満する。新聞社といえども、社内にあるのは下克上とも言うべき勝ち負けの世界。スキさえあれば、手柄を独り占めしよう。ライバルを出し抜こう。邪魔するヤツはつぶそう。そんなムードがぷんぷん。新米からベテランまで、それぞれに思惑を持つブンヤたちが目をギラギラさせている。
キャラクターも物語も堂々と誇張され、演出過多な向きはあるが、その分かりやすい演出が、一分一秒を争う戦場のような編集室にグっと濃密な空気感を生み出している。現実的なリアリティではないのかもしれないが、映画的なリアリティは十分、いや、十二分に表現されている。
また、締め切りギリギリのデッドラインまでに1面にどの記事をぶち込むかというかけ引きに、圧倒的なスリルと緊張感をもたせつつ、事故発生からの7日間をテンポよくつなぎ合わせた手腕も見事。欲を言えば、悠木の息子にまつわるくだりをカットして2時間程度にまとめられたらベストだっただろう。
さらに、“真実を伝える”ことが新聞の使命だとするならば、本作「クライマーズ・ハイ」は、新聞記者がその使命に対してどう向き合うべきかについても、記者の苦悩と葛藤とジレンマをあぶり出しながら言及している。クライマックスで悠木はある重大な決断を下すが、そのことが裏目に出てしまう。ただし、その裏目に出たことが、本当に悠木のミスだったの否か……。そこを検証する作業は、この作品を深く味わうために必須だ。
加えて、その翌日に、悠木はある記事を1面に打ち、社長を激怒させる。“真実を伝える”ことが新聞の使命でありながら、一方では利益やプライドを追求しようとする企業の理論。その狭間に亀裂が生じる。新聞は、一体何のために、ダレのために作られているのか、そしてブンヤとはマスコミとは一体何なのか、本作「クライマーズ・ハイ」には、そうした問題提起が随所にちりばめられているのだ。
“クライマーズ・ハイ”とは、登山中に興奮状態が極限に達して酸欠状態となったときに起こる、恐怖心さえも麻痺する“ハイ状態”のことをいうそうだが、ふと我に返ったときには、すさまじい恐怖を感じるという。その状態を、新聞作りに重ね合わせることにより、本作は、ブンヤが抱える興奮状態や恐怖心を浮き彫りにする。
臨場感を重視したカメラワークや彩度を落とした画質が、1985年という時代や、未曾有の大事故という背景、それに“報道の使命”というテーマ性にピタリと寄りそうほか、堤真一や堺雅人ほか、芸達者なキャストによる、男臭く、汗臭く、辛辣な演技も見どころ。感情移入できるのは、やはり女性よりも男性だろうか。マスコミ関係者や志望者であれば、ことさら満足できるであろう。
※ちなみに、
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「クライマーズ・ハイ」といえば、佐藤浩市を主役に起用し、2005年12月に放映されたNHKドラマがあります。そのまま映画にしても通用するのでは、と思うほど完成度の高い良質のドラマで、2006年には再放送もされています。DVDになっているようなので、映画を気に入った方は、ぜひともチェックしてみてください。堤真一の悠木、堺雅人の佐山もいいですが、佐藤浩市の悠木、大森南朋の佐山、このコンビネーションもなかなかのものです。

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