山口拓朗公式サイト

「ダークナイト」

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2008.8.25
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公開中の「ダークナイト」を鑑賞。
監督・脚本:クリストファー・ノーラン 出演:クリスチャン・ベール、ヒース・レジャー、マイケル・ケイン、アーロン・エッカート、マギー・ギレンホール、ゲーリー・オールドマン、モーガン・フリーマンほか 上映時間:152分 配給:2008米/ワーナー
ゴッサム・シティに巣くう犯罪集団の撲滅に執念を燃やすバットマン(昼の顏は巨大会社会長のブルース・ウェイン)。警部補と地方検事の協力を得て犯罪集団の摘発に成功したバットマンに対して、狂気の沙汰と化した凶悪犯罪者ジョーカーが宣戦布告。ゴッサム・シティは未曾有の混乱に陥る……。


ティム・バートンがメガホンをとった「バットマン」(89年)から16年、それまでのバットマンシリーズとは一線を画すトーンでバットマンの知られざる生い立ちを描いたクリストファー・ノーラン監督作品の「バットマン ビギンズ」(05年)は、「メメント」や「インソムニア」で見せつけたノーラン監督らしい鋭い人間描写が光る、まさしく新生バットマンの幕開けといえた。
あれから3年、ノーラン監督が再び作り上げた本作「ダークナイト」は、「バットマン ビギンズ」で構築した新たな世界を舞台に、よく練られたエピソードを満載した傑作だ。
スピード感あふれる展開、緻密に編み込まれたプロット、息を飲むカーチェイス&アクション、観客を感情移入へと誘う人物描写……どこをとってもピカイチだ。
物悲しいバットマンの生い立ちを描いた「バットマン ビギーンズ」が作られたことにより、主人公のブルースは観客にとってより身近なものになったが、本作では、そんな彼がバットマンとして活動するなかで新たに背負うことになったジレンマを色濃く浮き上がらせている。
しかも、展開がヒーロー映画のお約束にとどまっていない。とくに、正義を自負するバットマンを必要以上に輝かすことなく、逆に、バットマンに対して、その存在意義を問うた点は大胆なチャレンジだったといえよう。
バットマンが行動したことにより、いくつもの罪なき人の命が奪われた——。
その事実が、バットマン自身を苦しめる。そう、この作品は「事態を悪化させているのはバットマン、あなたのせいではないですか?」というニュアンスを多分に含んでおり、バットマン自身の“倒錯”や“おごり”に疑問を投げかけているのである。とりわけ、執事がブルースにする助言には、咀嚼するに値する説得力を感じた。
そもそもバットマンは、完全無欠のヒーロではない。むしろ、行き場のない悲観をアクティブな行動に変換することで、精神のバランスを図ってきた感がある。そんな人間くさい男に、あえて疑問を投げかけることにより、本作「ダークナイト」は、ヒーロー映画にありがちな勧善懲悪と、それに伴う分かりやすい着地点を回避している。
主人公のみならず、周辺人物の描き込みもお見事だ。過去に深い傷を持つ超破壊的快楽主義者ジョーカーをはじめ、バットマンの理解者である執事や、同じく理解者である自身の会社社長(バットスーツやバットモービルの開発者)、ブルースが思いを寄せる女友達と、その女友達の現在の恋人である敏腕検事……。一人ひとりは、決してバットマンの引き立て役ではなく、それぞれが希望や悩みを抱える人間として力強い筆圧で描かれているため、各人のドラマとしても十分に楽しめるのだ。
なかでも、正義感に燃える敏腕検事のデントが、ある事件をキッカケに、それまでとは180度反対の人間へと変貌したくだりには、バットマンやジョーカーに通じる物悲しさがあり、と同時に、人間という生き物のどうしようもない弱さを浮き彫りにする。行動の方向性こそ違えど、ブルース、ジョーカー、デント……彼らの行動の引き金になっているものが一様に、彼らがそれぞれに負った傷であることに皮肉を感じないわけにはいかない。
主演のクリスチャン・ベールは、葛藤するヒーロという難しい役どころを、前作以上に深みのあるクールな演技で乗り越えている。そして、ジョーカーを演じたヒース・レジャー(故人)は、初代ジョーカーのジャック・ニコルソンとはまた種類の異なる凶暴さと狂気をふりまく怪演を披露。マイケル・ケインやモーガン・フリーマンら脇を固める陣容も豪華にして重厚という贅沢さだ。
初見でも十分に楽しめると思うが、できれば、前作「バットマン ビギンズ」を鑑賞してから劇場に足を運ぶことをオススメしたい。

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