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映画批評「その日のまえに」

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2008.10.30 映画批評
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11月1日公開の「その日のまえに」。
監督:大林宣彦 原作:重松清 脚本:市川森一 出演:南原清隆、永作博美、筧利夫、今井雅之、勝野雅奈恵、原田夏希、柴田理恵、風間杜夫ほか 上映時間:139分 配給:2008日/角川映画
イラストレーターとして活躍する健大(南原清隆)の妻とし子(永作博美)は、ある日、病院で突然の余命宣告を受ける。一時退院したとし子は、健大と一緒に、結婚当初に住んでいた街を訪れる。懐かしい街を思い出に寄りそうように歩くふたり。時を同じくして、治る見込みのない病に侵された俊治(筧利夫)もこの町にやって来て……。


余命の宣告。それは、だれもが自分や家族の身に起こってもらいたくないと考えている出来事であると同時に、その可能性は決して0%ではない、というものだ。つまりそれは、主人公家族の置かれた境遇をだれも無視できないことを意味している。
この手の物語では、死にゆく人物のキャラクターが重要だが、本作でその役を担うとし子は、実に魅力的だ。明るく快活で、家族思い。多少つらいことがあっても悲観に暮れることなく、笑顔で前を向く。その気丈な姿を前にして、多くの観客が、「自分はああも立派に死ねるだろうか……」と思うことだろう。
もちろん、とし子とて死を恐れない聖人君子ではない。化粧を落としながら流す涙や、入院前に夫にあてた手紙からは、彼女がめったに見せない弱さが、寂しさが、悔しさが、怯えがにじみ出る。でも、そうしたネガティブな感情をむやみに他人にぶつけることはしない。それどころか、ふだんは率先して他人を励ましさえする。そんな彼女の最期に、感情が揺さぶられないはずがない。
おもしろいのは、本作「その日のまえに」が、ちょっぴり風変わりな群像仕立てになっている点だ。夫妻がかつて住んでいた街の人々や、偶然出会った人々、路上の詩人……。夫妻とは一見無関係と思われる人々の人生が、夫妻の周辺に広がる空間を絶妙な間合いで埋め、作品に厚みをもたせているのだ。
もともと絵作りにこだわる大林監督だが、本作でも、随所におとぎ話風な映像を挟み込むなど、本領を発揮している。が、ある場面では詩的でユニークなそれらの映像が、ある場面では、(見え見えの合成等)あまりのチープさで観客を興ざめさせる。意図的なのかもしれないが、それによって、全体の流れが寸断されるのが残念だ。
また、とし子の夫を演じる南原清隆の、妙にかしこまった仕草やセリフ回しが、おかしいほど大時代的だ。実直な人柄を描くのは構わないが、この演出はあまりに不自然だろう。健大自身に今をときめく売れっ子イラストレーターとしてのカリスマ性が感じられないのも問題だ。
“宮沢賢治”をレトリックに、全編を叙情的なムードに染め上げた本作「その日の前に」は、“死”という普遍的なテーマを群像で練り上げた佳作だ。ただし、大林監督特有の映像センスと演出が許容できるか否かによって、その評価は大きく変わるだろう。

お気に入り点数:55点/100点満点中

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