「魔法遣いに大切なこと」
2008.12.12
12月20日より公開される「
監督:中原俊 脚本:山田典枝 音楽:羽毛田丈史 撮影:石井浩一 出演:山下リオ、岡田将生、永作博美、田中哲司、木野花、鶴見辰吾、余貴美子、緑友利恵ほか 上映時間:100分 配給:2008日/日活
旭川に住む少女ソラ(山下リオ)は、正式な“魔法士”の資格を取るために上京し、魔法局が主催する「魔法士研修」に参加。同期の豪太(岡田将生)らと実践を重視した研修に励む。ソラと豪太は、魔法を遣うことの難しさやすばらしさを経験していくなかで、互いに心を通わせ始めるが……。
すでにコミックやアニメ、小説などで人気を博している作品が、待望の映画化。魔法遣いがあたり前にのように存在するという設定のなかで、中原監督が、ほのぼのと心あたたまる初恋青春物語を紡ぎ上げた。
スクリーンからこぼれてくるのは、思春期ならではの甘酸っぱさとほろ苦さだ。ソラと豪太が、わずか10日ほどのあいだに人間的に大きな成長を遂げ、なおかつ、互いの距離を少しずつ狭めていくくだりは、まさしく青春映画の王道。魔法に頼る演出ではなく、“魔法の遣い方”に“人間の生き方”を重ね合わせるというテーマの見せ方が心憎い。
脚本が光る作品でもある。ソラの実家がある旭川を始点と終点にした、導入とクライマックスのつなげ方が巧妙で、また、ソラがプロの魔法士として初めてかける魔法も、ベタベタな美談ながらもジーンと感動を誘う。ほどよく編み込まれたソラと豪太の恋物語も、10代ならではのピュアな感性が心地よく、その恋が、ソラにまつわる“ある秘密”のせつなさをより高める伏線になっている点もスマートだ。
魔法が決して万能ではないことを示し、しかも、ときに人間のマイナス面を直視せざるを得ない点にも言及するなど、単なるお気ラク魔法ファンタジーに終わらせまいとする制作者の心意気も評価したい。憧れの職業というよりも、なかなか大変な覚悟と信念を必要とする聖職ではないか、魔法士よ。
一見ティーンネイジャー向けの作品のように見えるが、なにをなにを大人の鑑賞にも十分に堪えうる。ソラや豪太の成長に目を細めるもよし、若かりし日の自分の姿を彼らに重ね合わすもよし。いや、むしろ泣きどころで涙するのは、思春期から遠く離れた場所にいる大人たちのほうかもしれない。
本作「魔法遣いに大切なこと」は、魔法というフィルターを介しつつ、人と人のつながりや、初恋の痛みと喜び、それに、見えない絆で結ばれた家族愛を描いた小さな秀作。魔法士のかざした手のひらが弱々しく、どう見ても魔法を使っているようには見えない……という瑕疵については、あえてそっとしておこう。
映画初出演の山下リオの演技は、初々しさ満点ながら、その素人くささが、かえって純粋で清廉なソラの人柄になじんでいる。ポワポワした天然系のムードのなかに、一本凛とゆるがない芯がある。そんな空気感は、演出だけではなかなか作れるものではない。あるいは、ヒロインのキャスティングにおいて、演技力以上に、感性と雰囲気を重視したのかもしれない。だとしたら見ごとな確信犯だ。
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