「嵐になるまで待って」
2009.2.23
公開中の「
原作・脚本・演出:成井豊 音楽:加藤昌史 美術:キヤマ晃二 出演:渡邊安理、細見大輔、西川浩幸、温井摩耶、三浦剛、石原善暢、阿部丈二、小林千恵、久松信美、土屋裕一ほか <映像スタッフ>エグゼクティブプロデューサー:加藤昌史、小谷浩樹 撮影監督:大嶋博樹 映像監督:佐藤克則 上映時間:124分 配給:2009日/ソニー
演劇集団キャラメルボックスが08年に上演した舞台作品をデジタル映像化。生の舞台を改めて映画という形態で発信することについては、批判的な意見もあるかもしれないが、多くのクリエーターがクロスオーバーによって新たな価値をもつ作品を生み出しているこの時代において、本作のような試みが行われたのは自然の流れだろう。
ただし、演目を再構成して一から撮影していくミュージカル映画などとは異なり、生の舞台を1発収録する本作では、映像ウンヌンよりもまず、その演目の内容とクオリティが、作品の完成度に直結する。そういう意味では、この作品のウエートはあくまでも映画ではななく、舞台にあるといえる。
声優志望のユーリ(渡邊安理)は、アニメのオーディションに合格した。ところが、スタッフが初めて顔をそろえた席で、俳優の高杉(石原善暢)と作曲家の波多野(細見大輔)が激しく口論。激高した高杉が波多野の姉の雪絵(温井摩耶)に暴力をふるおうとしたので、波多野は「やめろ!」と声を上げるが、そのときユーリの耳には「死んでしまえ!」という波多野の“もう1つの声”が聞こえた……。
これまでに4度も再演している人気演目だけあり、なかなか見ごたえがある。2時間超えの長丁場にもかかわらず、ミステリーとサスペンスを両翼にした物語は、大きな中だるみもなく観客を目的地へと送り届ける。登場人物たちの個性的なキャラクターも確立されているため、少々イビツな形をした人間たちがくり広げる群像劇としても楽しめる。
表向きは謎解きの形式をとりながらも、その謎の背景に登場人物の物悲しい過去や秘密を忍ばせて、物語に広がりと深みをもたせている。なおかつそこに、人間味あふれるユーモアを「天の配剤」とも言うべきバランスで盛り込み、人間同士のかかわり合いが生む悲喜こもごもをすくい上げる。演技派をそろえたキャストの力量も、この作品の大きな支柱。とくに西川浩幸演じる広瀬教授の言動は、作品から余分な重苦しさを取り除く緩和剤として効果てき面だ。
ミステリーのカギを握るのは、言葉とも違う人間の“もう1つの声”――。その謎めいたエレメントに、「愛」と「憎しみ」を交錯させたスリリングに展開は、随所に挟まれるテンポのいい軽妙な会話劇も功を奏し、観客を楽しませながらも、グイグイと深遠な精神世界へと引き込んでいく。脚本がよく練られており、決して表層的なおもしろさに終わっていないところが、この作品の真骨頂だろう。
8台ものカメラを駆使して役者の細かい表情をとらえることにより、ステージとの肉薄感を実現する本作「嵐になるまで待って」。残念ながら、<リアルに役者の息づかいやほとばしりが感じられる生の舞台とは分けてとらえる必要がある>という条件を外すわけにはいかないが、キャラメルボックス未体験者への訴求という点に考慮するなら、リーズナブルな価格(映画のチケット代)で人気の舞台演目が見られるこの気軽さ&お得感を単純に喜びたいところだ。
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