山口拓朗公式サイト

「映画は映画だ」

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2009.3.16
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公開中の「映画は映画だ」。
監督:チャン・フン 原案・製作:キム・ギドク 製作総指揮:ソ・ジソブ カン・ジファン 脚本:キム・ギドク、チャン・フン、オク・チンゴン、オー・セヨン 出演:ソ・ジソブ、カン・ジファン、ホン・スヒョン コ・チャンソクほか 上映時間:113分・PG-12 配給:2008韓/ブロードメディア・スタジオ
傲慢でけんかっ早い映画俳優のスタ(カン・ジファン)は、アクションシーンの撮影中に激高して相手役を殴ってしまう。代りの相手役が見つからず困っていたところ、スタは以前に出会った俳優志望のヤクザ、ガンペ(ソ・ジソブ)のことを思い出し、わらにもすがる思いで連絡を取る。ガンペはけんかのシーンで本当に闘うことを条件に、映画への出演を了承する……。


言うまでもなく映画は虚構だ。けんかのシーンを撮影するのに、役者同士が本気で殴り合うなんてことはあり得ないことである。ところが、劇中の映画撮影シーンでは、スタとガンペが進んで殴り合いを行い、それを見ながら(劇中の)監督は、「おおっ、リアル!」と喜ぶ。
と、なんともすさまじい撮影現場ができ上がるのだが、スタとガンペの本気の殴り合いや、ガンペが本当に“ヤって”しまったあるシーンなどは、本作「映画は映画だ」のシーンとしてはやはり演技で撮られているわけであり……、結局のところ観客は、<リアルに見せる虚構こそが映画なのだ>という、パラドックス的な結論を突きつけられるのだ。
そうした自虐めいた映画構造同様におもしろいのが、スタとガンペの人間ドラマだ。傲慢な俳優とニヒルなヤクザ。ふたりは対照的でありながら、似た者同士でもある。彼らのなかにあるS極とN極はそのつど変化し、驚くほど距離を縮めたかと思うと、次の瞬間には強烈に反発し合う。そしてまた引き合う。そのくり返しだ。
だが、彼らは密かに相手にシンパシーを感じており、いつしか互いが“ほっとけない”存在となる。ことあるごとに辛辣な言葉をぶつけ合い、激しく拳も交えるが、ふとした瞬間に相手の言葉を反芻し、それを消化してみせたりもする。そんじょそこらの「友情」とは同列に扱えない、魂と肉体をファイトさせながら理解を深めていく異形な「友情」が、そこにはある。
ガンペにまつわるヤクザ絡みの陰謀や、スタにまつわる女絡みの陰謀など、サブ的なドラマはやや安直だが、こうしたストーリーのなかで、ふたりの気持ちの変化を描いたのは正解だろう。ガンペがある敵対する相手に恩赦を行い、スタは自分の彼女との関係を見直す。不器用でアクの強い男ふたりを主人公に据えておきながら、その成長を描く。この映画は、美しい友情と更正の物語なのか……?
が、そこが、この映画の目指すところではなかった。
この映画の最後に、多くの観客は目を丸くするはずだ。クライマックスと思われしシーンのさらにあとに残されたシークエンスに対して抱く感情は十人十色だろう。だが、鑑賞後に強い「印象」ならぬ「インパクト」を残すこのラストこそが、この作品にはお似合いだ。まったく人間ってやつぁ、人生ってやつぁ、どこまで不器用にできてやがるんだ——。
いずれにせよ、本作のタイトルは、間違っても「映画は映画にあらず」や「映画は現実だ」でもなく、「映画は映画だ」であることが、ラストではしかと証明される。侠気とメンツと孤独と拳を交錯させるふたりのアウトロー野郎が、男性客を恍惚とさせ、女性客の母性本能をくすぐる。そんな映画でもある。

お気に入り点数:70点/100点満点中

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