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「フィッシュストーリー」

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2009.3.19
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20日より公開される「フィッシュストーリー」。
監督:中村義洋 原作:伊坂幸太郎 脚本:林民夫 撮影:小松高志 美術:仲前智治 音楽:菊池幸夫 音楽プロデュース:斉藤和義 出演:伊藤淳史、高良健吾、多部未華子、濱田岳 森山未來、大森南朋、渋川清彦、大川内利充、眞島秀和、江口のりこ、山中崇、石丸謙二郎ほか 上映時間:112分 配給:2009日/ショウゲート
2012年、彗星の衝突によって地球は5時間後に消滅しようとしていた。(住人たちが避難して)ほとんど誰もいなくなった町のとあるレコード店では、店長(大森南朋)が、知る人ぞ知る伝説のパンクバンド「逆鱗」が1975年に録音したカルト曲『FISH STORY』を流していた。人類は本当に滅びてしまうのか……!?


「アヒルと鴨のコインロッカー」の伊坂幸太郎(原作者)×中村義洋(監督)が再びタッグを組んだ。脚本に「ルート226」で中村監督とコンビを組んだ林民夫、音楽に伊坂の世界観に共鳴するミュージシャン斉藤和義を招へい。クリエイティブ精神旺盛なスタッフが、入り組んだ人間模様とスリリングな音楽が複雑に絡み合う原作の世界観を見事に再現した。
彗星の地球衝突まであと5時間という2012年をとば口に、2009年、1999年、1982年、1975年の5時代が折り重なる壮大なスケールの物語。時代ごとに一見何のつながりもないドラマがくり広げられる。まるで5つの短編映画を見ているかのよう。しかしながら、登場する誰も彼もが人間くさく(それが魅力的!)、どの時代のドラマにも自然と引き込まれる。
なかでも重要なパートを担っているのが、1975年の物語だ。この時代に「逆鱗」の楽曲『FISH STORY』が生まれたことが、5時代を数珠つなぎにする唯一のカギとなる。このバンド、単なる寄せ集めかと思いきや、なにをなにを、かなりカッコいい。社会に対して斜に構えたスタンスが堂に入ってるし、なによりメンバーの演奏が実にソレっぽい。社会のレールからはみ出した若者のエッジ感と有機的な痛みが、リアルなパンクサウンドに凝縮され、強力なエネルギーを生み出す。
劇中に登場する楽曲『FISH STORY』は、シンガー・ソングライターの斉藤和義が手がけたもの。彼特有のロックセンスを踏襲しつつも、王道パンクとしての存在感も醸す名曲だ。物語のカギを握らせるに十分なインパクトと“アヤシサ”を秘めている。この映画に限っては、『FISH STORY』に冴えがなければ、物語からも冴えが消えていただろう。
バンドのリーダー的存在の伊藤淳史の熱演も光る。これまでの彼にはない魅力を引き出した中村監督の手柄ともいえよう。また、ふたつの時代で名バイプレイヤーぶりを発揮した大森南朋や、気弱な大学生を好演した濱田岳、ユーモアあふれる正義の味方を演じた森山未來など、各時代をそれぞれの色で染め上げたキャストの仕事ぶりもすばらしい。個性的な登場人物たちがくり広げる時空を超えた群像劇は、この映画の大きな見どころだ。
プロットの編み方も秀逸で、ほどよく伏線を張り巡らせつつ、クライマックスで華麗な収斂を試みる。「バベル」(06年)が世界を舞台に“負の連鎖”を描いた映画だとすれば、本作「フィッシュストーリー」は、日本を舞台に“正の連鎖”を描いた意欲作。荒唐無稽な設定と展開から透かして見えるのが、現実世界に変換可能な“希望”であるところが心憎い。絵本のなかのおとぎ話が、子供たちの人生の糧となるなら、この作品は、糧を見失った大人たちのためのおとぎ話といえるだろう。

お気に入り点数:80点/100点満点中

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