「バーン・アフター・リーディング」
2009.4.23
24日より公開される「
監督・製作・脚本:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン 出演:ジョージ・クルーニー、フランシス・マクドーマンド、ブラッド・ピット、ジョン・マルコヴィッチ、ティルダ・スウィントン、リチャード・ジェンキンズ、エリザベス・マーベル、J・K・シモンズほか 上映時間:96分・PG-12 配給:2008米/ギャガ=日活
舞台はワシントン。とあるフィットネスセンターの更衣室で見つかったCDの落とし物。従業員のチャド(ブラッド・ピット)が、パソコンでCDの中身をチェックすると、そこにはCIAの機密情報が書き込まれていた。チャドはこのCDの持ち主をゆすってお金を手に入れようと、同僚のリンダ(フランシス・マクドーマン)を誘ってある計画に乗り出すが……。
「ノーカントリー」(07年)でアカデミー賞作品/監督賞に輝いたコーエン兄弟が、その受賞後第一作としてお見舞いするのは、重厚な筆致が光る「ノーカントリー」の対極に位置するおバカモード全開のクライム・エンターテインメント。「CIAの機密情報」なるハリウッド大作風のネタで大風呂敷を広げつつも、実際にくり広げられるのは、ひとクセもふたクセもある男女数人が入り乱れての、痛くて笑える人間劇場だ。
ノリだけで生きる筋肉至上主義者をブラッド・ピット、出会い系にハマる“女漁り”男をジョージ・クルーニー、全身整形を切望する年増超えをフランシス・マクドーマン、アル中でクビになった元CIA職員をジョン・マルコヴィッチ、不倫中の神経症的女医をティルダ・スウィントン、従業員に恋心を抱く気弱な老人をリチャード・ジェンキンズが演じる。ボケっぷり、滑稽ぶり、勘違いっぷりが激しい愛すべき欠陥人間たちを、ハリウッドを代表する豪華キャストが演じるという、いろいろな意味でワクワク&ドキドキの1本だ。しかしまあ、この人たちで一体何本の映画が撮れるだろうか……。
当てつけがましく笑いを取るのではなく、各人はあくまでもシリアスに役を演じる(ブラピを除く)。滑稽さに気づいていないのは本人だけ、という構図は、全体を俯瞰する人間(=観客)にとっては楽しいものだ。決して爆笑するようなネタではなく、じわ~っと笑いが込み上げてくるような、アイロニーたっぷりのユーモアが、この映画の醍醐味だ。
しかも、監督はコーエン兄弟。まるで古典サスペンスのように丁寧に伏線を張り巡らせた物語で、映画好きの期待に応える。話をほどよく複雑に見せつつ、中盤以降は、バラバラに見える各人のエピソードをスムーズにつなげる。単におバカな群像劇かと思いきや、突如ショッキングな映像を見せたり、社会風刺をピリリと利かせたり、物悲しい運命を描いたりと、全方位から楽しめる作りがなされている。
立ちまくったキャラクターや練られまくった脚本はもちろんのこと、味のある絵作りや音楽、使われる小物なども、コーエン兄弟のファンなら楽しめるだろう。滑稽さや自虐、皮肉、ユーモアなど、さまざまなエッセンスをちりばめながら、どうしようもない人間たちの、それでも憎むことのできない人生を、サスペンスドラマのなかに放り込んだ痛快作「バーン・アフター・リーディング」。万人受けする映画ではないが、映画を楽しむツボをたくさん持った映画ファンであれば、96分間、ニタニタし続けられる作品である。
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