「キング・コーン 世界を作る魔法の一粒」
2009.4.28
公開中の「
監督・製作:アーロン・ウルフ 共同製作・出演:イアン・チーニー、カート・エリスほか 上映時間:90分 配給:2009米/インターフィルム
大学の親友であるイアンとカートは、自分たちの食生活に対する見識を深めようと、国内最大のトウモロコシ生産地アイオワで農業を始める。収穫したトウモロコシのゆくえを追跡しようというのだ。ふたりは補助金制度や化学肥料、遺伝子組み換えなどの問題を通じて、アメリカの現代農業の実情を目の当たりにする……。
「トウモロコシのゆくえを追う」。ドキュメンタリーとしては、なんとものどかなテーマだ。のどかというより、地味といったほうがいいだろうか。トウモロコシのゆくえを追ってどうすんの? そう思う人もいるだろう。
ふたりが農作業をスタートさせるまでが実にのんびりムードだが、徐々に、そう、アクセルペダルをじわ〜っと踏み込むかのように、この作品は、知られざる事実を浮かび上がらせていく。大仰なテーマで興味を惹きながらも尻つぼみになるドキュメンターが少なくないなか、本作「キング・コーン」はどんどんおもしろさが加速していくタイプの作品だ。そして、最後には、トウモロコシがアメリカの産業を牛耳っているボス、もとい、キングであることを認めざるを得なくなるのだ。
品種改良で栄養価が低くなったトウモロコシが大量に作られるワケ? その理由がつまびらかにされていく過程が興味深い。アメリカで大量消費される食用牛のエサとして使われ、ありとあらゆるお菓子やジュースに含まれる甘味料(コーンシロップ)として使われ、ファーストフードでポテトを揚げる油(コーン油)として使われる。もちろん、飽食の時代を支える台所事情を勘案すれば、多少の致し方なさを秘めてもいるが、トウモロコシに完全依存してしまった結果、とんでもない食公害が出始めている――という事実に至る!
本作に描かれている事柄は、決して対岸の火事ではなく、アメリカに依存する日本にとっても極めて重要な意味をもつ。また、トウモロコシビジネスに“おんぶにだっこ”な産業構造が生み出す「負の遺産」の大きさについても、この映画は雄弁だ。しかしながらアメリカ政府は、その負の遺産の存在を知らぬ存ぜぬ的な態度で無視。逆に、肥大化したトウモロコシビジネスをさらに支援しようととする。
主人公のイアンとカートが、自分たちが栽培したトウモロコシを食べたときの反応(「ぺっ」と吐き捨てる)や、あるトウモロコシ農場の主の「俺たちはクズを作っている」発言が、この映画が描く現実を象徴する。
終始淡々としたペースを崩さずに話を進め、迫真のドキュメントでしょ!といった素振りをおくびにも出さない本作「キング・コーン」。随所に模型を用いた図解説を挟むほか、イアンとカートに体当たり実験をさせるなど(たとえば、コーンシロップの手作り)、社会科教材ビデオのようなノリと分かりやすさで、観客を退屈させない。
惜しむらくは、バイオエタノールの一件で、トウモロコシを取り巻く状況が、撮影中と撮影後で大きく変わってしまった点だが、その変化が本作の価値を腐らせることはない。とはいえ、トウモロコシビジネスは今もなお大きなうねりのなかにあるため、短期的な動向を拾い上げての分析や評価が意味をなさないのも事実だ。そのあたりは、アーロン・ウルフ監督も心得たもので、すでに「キング・コーン」の続編を取材をしているという。新たなリポートを待ちたいと思う。
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