映画批評「築城せよ!」
2009.6.19 映画批評
6月20日公開の「
監督:古波津陽 脚本:古波津陽、浜頭仁史 撮影:辻健司 主題歌:多和田えみ 出演:片岡愛之助、海老瀬はな、江守徹、阿藤快、藤田朋子、津村鷹志、木津誠之、ふせえりほか 上映時間:120分 配給:2009日/東京テアトル
舞台は2009年の日本。ある夜、過疎の町・猿投(さなげ)に、かつてこの土地を治めていた恩大寺(片岡愛之助)ほか2名の戦国武将の霊が現れる。彼らは今から約400年前に、自分たちの城を完成させることがきないまま無念の死を遂げていた。そんな元領主の「築城せよ!」の号令により、段ボールで城を作るという無謀なプロジェクトがスタート。建築学を専攻する大学生ナツキ(海老瀬はな)が棟梁になって築城を進める。ところが、築城を快く思わない町長(江守徹)や役場の人間が、城攻めの計画を練り始め……。
「段ボールで城を作る」。そんな奇想天外なアイデアを実現させた企画にまずは拍手! 町民たちが世を徹して城を作り上げていく様子は、まるで学園祭の発展バージョンだ。こんな楽しそうな企画があったら参加してみたいかも……と思わせるドリームプロジェクト。築城協力者たちが、細かい対立やいがみ合いを経由しながらも、徐々に団結していくプロセスは、なかなかの青春ドラマだ。
「段ボールで城を作る」というワンアイデアでどこまでやれるのか? そうした心配を、この映画は並々ならぬ情熱でねじ伏せる。戦国武将の霊を持ち出した時点でうさん臭さ全開なのだが、その「うさん臭さ」を現実世界に溶け込ませる手腕に力がある。武将が手綱を握る馬が商店街を颯爽と走る姿を、ごくあたり前の風景として見せてしまう。なんともしたたかな演出力だ。第一、これほど荒唐無稽な設定であるにも関わらず、登場人物たちのまじめ腐りっぷりはどうだ。彼らの馬鹿正直さが、この作品を貫通する愛すべきユーモアの正体だ。
築城派と築城反対派の対立ドラマを柱に据える一方で、武将・恩大寺と女学生ナツキが深めていく信頼関係や、ナツキの棟梁としての成長ぶりなど、並行して盛り込まれた小粒ながらも人間味あふれるサブストーリーも見どころだ。頑固一徹な恩大寺が、現代社会のルールや約束事を少しずつ理解、吸収していくだりも、なにをなにを心温まるではないか。あちらこちらに粗さや雑さも見られるが、おもいきりドキュメンタリー寄りな題材を、熱を帯びたエンターテインメンとして料理した製作者のチャレンジ精神を高く評価したい。
恩大寺に扮した歌舞伎界の逸材・片岡愛之助の好演ならぬ怪演に、何度吹き出したことかわからない。まさに戦国武将ここに降臨! という気合の役作りだ。また、悪代官よろしく悪だくみがお似合いの江守徹や、その腰巾着のふせえりらも、持ち前のキャラクターを十二分に発揮。さらに瞠目すべきは、女子学生のナツキに扮した海老瀬はなだ。ちょっぴり鼻っ柱の強い健康的なヒロインを自然体で演じ抜いた。この実力派の新鋭女優を主演級で輩出したことは、のちのちこの映画の大きなバリューとなるだろう。
監督は、本作「築城せよ!」が初の長編作品となる古波津陽。本作は、もともと自身が2005年に製作し、アメリカのサンフェルナンドヴァレー国際映画祭で外国語映画賞を受賞した短編映画「築城せよ。」の劇場公開用リメイクだが、ウワサに違わぬパワフルかつ個性的な作風は、戦国時代から使われていたであろう言葉で評すなら、「あっぱれ!」の一言である。
太陽の陽を浴びて金色に輝く高さ25mの天守閣。この凛々しい建造物が池の湖面に映るショットは、この映画の誇りであろう。築城に用いられた段ボールは、その数1万2000個。クランクアップ後に即解体されたという潔さがまたロマンをかき立てる。
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