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映画批評「バーダー・マインホフ 理想の果てに」

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2009.7.21 映画批評
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7月25日公開の「バーダー・マインホフ 理想の果てに」。
監督・脚本:ウリ・エデル 原作:シュテファン・アウスト 製作・脚本:ベルント・アイヒンガー 出演:マルティナ・ゲデック、モーリッツ・ブライプトロイ、ヨハンナ・ヴォカレク、ブルーノ・ガンツほか 上映時間:150分・R-15 配給:2008独・仏・チェコ/ムービーアイ
社会変革を希求する女性ジャーナリスト、マインホフ(マルティナ・ゲデック)は、ある日、目の前で反米デモ中の学生が警官に射殺される現場を目撃する。正義と理想を掲げて行動するカップル、バーダー(モーリッツ・ブライプトロイ)とエンスリン(ヨハンナ・ヴォカレク)に出会った彼女は、その後、彼らと極左組織「ドイツ赤軍(RAF)」を結成し、武力闘争を始める……。


ドイツ赤軍の闘争史を映画化した本作「ハーダー・マインホフ 理想の果てに」は、2009年アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされるなど、各方面から高い評価を受けた作品だ。
イラン国王訪問反対デモのエピソードを皮切りに、無政府主義者ルディ・ドュチュケの暗殺未遂、フランクフルトのデパート放火、駐留アメリカ軍や出版社への爆弾攻撃、ルフトハンザ機のハイジャック……等々、1967年から1977年の10年間に起きたドイツ赤軍と関連性のある歴史的事件が目白押し。ドラマというよりは、シリアスなドキュメンタリーを見ているかのようだ。
活動家たちの行動が、どれだけ崇高な「理想」に基づいたものであろうと、ひとたび血で血を洗う闘争が始まれば、「理想」のための「革命」ではなく、「恨みを晴らす」ための「復讐」へと行動は変化する。そして、闘争をくり返すなかで感情は麻痺し、備え付けのブレーキは制御不能となる。一般市民を巻き添えにする革命闘争に共感を寄せる観客は、そう多くはないだろう。
ただしこの映画は、そんな彼らを悪名高きテロリストとして断罪するでも、悲劇的な末路を冷笑するでもない。歴史を見つめる視点はあくまでもフラットだ。あまたの犯罪をくり返すドイツ赤軍にも、あるいは、彼らが敵対視する横暴な国家にも、ほとんど肩入れしていない。事実を事実として記すことに心血を注いでいる。そして観客に問いかけるのだ。「あなたはこの史実をどう検証しますか?」と。
20世紀の歴史は闘争の歴史とも言えるが、こと世界的に革命ムードが高まった60〜70年代は、その闘争が意味するものが、より先鋭化された時代だったのだろう。現在起きている事象をその場に居ながらに評価することは難しいだけに、ドイツ赤軍が暗躍してから30年以上がすぎた今、このような映画が作られた意義は小さくない。関連性のある近年の話題作「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」(07年)などと合わせて見れば、革命闘争に命を削った活動家たちの素顔が見えてくるかもしれない。
10年の軌跡を2時間半の尺にまとめ上げた脚本家ベルトン・アイヒンガー(「ヒトラー最期の12日間」[04年]の脚本家)と、リアリティのある描写を連発したウリ・エデル監督。ふたりの堅実な仕事ぶりに脱帽だ。一方で、マルティナ・ゲディック、モーリッツ・ブライプトロイ、ヨハンナ・ヴォカレクら実力派俳優の力量も見逃せない。
本作「ハーダー・マインホフ 理想の果てに」は、過剰な演出を避けながら、歴史的事実をシャープに活写した史料的価値の高い1本だ。この映画に、よもや感動のドラマを期待しようものなら、息継ぎなく史実が描かれる150分間は、ツラい時間になるだろう。

お気に入り点数:75点/100点満点中

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