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映画批評「セントアンナの奇跡」

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2009.7.25 映画批評
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本日公開の「セントアンナの奇跡」。
監督・製作:スパイク・リー 原作・脚本:ジェームズ・マクブライド 出演:デレク・ルーク、マイケル・イーリー、ラズ・アロンソ、オマー・ベンソン・ミラー、マッテオ・シャボルディ、ヴァレンティナ・チェルヴィほか 上映時間:163分・R-15 2008米・伊/ショウゲート
ニューヨークの郵便局で、ひとりのベテラン局員が、突然、窓口に切手を買いに来た男を射殺した。前科もない品行方正を絵に描いたような局員がなぜ? 警察が彼の部屋を家宅捜索すると、1944年にイタリアで行方不明になった歴史的価値の高い彫像が見つかった。果たしてこの彫像と殺人の接点はあるのだろうか……?


アメリカの人種差別問題をえぐるような社会派作品を撮り続けているスパイク・リー監督が、第2次世界大戦時に実在した黒人だけの部隊「バッファロー・ソルジャー」の最前線にあった史実をもとに、濃密なヒューマンドラマを紡いだ。
黒人兵士の心の物語であり、残酷な史実を浮かび上がらせた物語であり、文字通り、人間の奇跡を描いた物語である。
主人公はイタリアに送り込まれた4人の黒人兵士だ。彼らは最前線で体を張るかたわら、黒人である自分たちの“捨て駒”的な役割にうすうす気づいている。ところが、彼らが身を潜めた村には、黒人に差別意識をもつ者はいなかった。明日の命さえ分からない身にもかかわらず、兵士たちはなぜか自由さと居心地の良さを感じる。最前線という特殊な舞台に、当時のアメリカが宿していた人種差別問題をさり気なく流し込むあたりに、リー監督のしたたかさがうかがえる。
では、そんな黒人兵士たちが一枚岩かといえば、そうではなく、彼らのなかにもまた階級や身分の違いがあり、しばしば、いざこざや衝突が起きる。差別や序列の構造は常に“入れ子の箱”ようなものだ、とでも言いたげに。そうしたなか、4人の黒人兵士のなかでもひときわピュアなトレインが、その大きな体躯同様の広量さで存在感を放つ。彼は戦地でひん死の少年を助けると、一所懸命にその世話を焼くようになる。少年を守るためなら、上官の命令に背くことも、我が身を犠牲にすることもいとわない。毎日、人の命が紙くずのように散る最前線において、ひときわ清らなトレインの心が感動を誘う。
一方でこの映画は、ある凄惨な虐殺シーンを映し出す。史実に残るセントアンナの大虐殺だ。子供や女性を含む民間人に対してふるわれた蛮行は、リアルで血なまぐさい映像を通じて、観客のもとに届けられる。現場に居た牧師は言う。「主よお許しを。彼らかは無知なのです」と。別の場面では、兵士のひとりが「キリストはなぜこの戦争を許しているのか?」というセリフも口にする。リー監督が、戦争と宗教とを照らし合わせた「問い」を確信犯的に投げかけていることは間違いあるまい。
その証左が、終盤に描かれる少年にまつわる奇跡の描写である。受け止め方はそれぞれだろうが、もしそこにリー監督の意図を見つけるとしたら、少年が終始どのような存在として描かれてきたかを振り返えるのが一番だろう。そして、少年が戦後も長らく持ち続けたあるモノに注目だ。この映画が示唆するメッセージは、思った以上に重層的で歯ごたえがある。
アメリカ兵はもとより、ドイツ人やイタリアのパルチザン(抵抗勢力)らが入り乱れるドラマは、その相関図を把握するのに少々骨が折れるが、そのぼやけた境界線に、あえて戦争の本質をにじませているようにも見える。痛々しい交戦描写を多分に含んだ163分は、表層を走り抜けるというよりは、人間の「深層」と戦争の「真相」をじっくりと掘り進めるかのようだ。突きつけられる痛みは小さくないが、それでも最後には、人間の愛と信頼の力を信じさせてくれる1本だ。

お気に入り点数:75点/100点満点中

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